SWEET-躊躇いと純情-
-The hesitation and the pure heart- Field of love.


(8)



 ◆◇◆

それから一ヵ月ほど経った11月の土曜日、空気がピンと張り詰めた寒い朝。

「おはよう」

「□※▲ッ!!」

ぼくは目覚めるなり仰天してしまった。ベッドの脇に氷沼くんがいたんだ。

「なななにやってんの!?」

彼はベッドの脇に椅子を持ってきて座り、ぼくを見てたらしい。そりゃ合鍵は預けてあるけどこんな朝っぱらから‥‥うわ、まだ6時じゃないか。

「ドライブのお誘いに来たんだ。絢都があんまり気持ちよさそうに寝てるから起こせなかった」

そう言ってほほ笑む。部屋の冷えた空気が体を包む。

「――っ寒! なんでヒーター点けてないんだよ」

照明はちゃんと点けてるくせに。

「あっ、絢都見てたら忘れてた」

もしもーし。

「で、いつからいたの?」

氷沼くんはヒーターのスイッチを入れて戻ってきた。

「5時過ぎくらいかな? 朝の絶景ポイントがあってさ。写真撮ろうと思ってたんだ」

「ごっ5時過ぎー!?」

氷沼くんの腕を掴んだら、すごく冷たい。

「こんなに冷えて‥‥」

ぼくは彼の腕を引き寄せ、上着を脱がせて布団に引き込んだ。

「絢都?」

「入りなよ。寒いから早く」

氷沼くんが体を収める。

「うわ、つめてーっ」

あったかいお風呂に氷を入れたみたいな感じ。

「あったかーい」

氷沼くんが幸せそうに丸まる。

「もう、何やってんだよきみは」

「絢都の寝顔見てたらどばっと愛情が込み上げてきてさぁ‥‥。目が離せなくなっちゃったんだ」

氷沼くんはこういうことを臆面もなく言ってのける。

「あのなー。‥‥もうあったまった?」

「‥‥まだ。」

氷沼くんが抱きついてくる。本当だ、まだ冷たいや。

部屋が暖まるまでぼくたちはこの格好だった。

「なぁ氷沼くん、写真撮りに行くんじゃなかったのか」

「やめたー。日昇るでしょ、もうすぐ」

そう言って彼はぼくを抱き締める力を強める。時計を見たら6時35分だっだ。

「ドライブはー?」

「いかなーい。絢都とこうしてる」

おいおい。こんな時間に起こしといて、1日中布団に入ってるつもりか?

「いい加減、腕しびれてきたよ。部屋もあったまったし、起きてどっか行こうよ」

そう言ったら彼は、う〜んと唸ってから体勢を変え、ぼくの上に乗っかってきた。

‥‥氷沼くん? 確かにぼくの腕は横寝で痺れてるけど‥‥これはないんじゃないか?

氷沼くんが呼吸するたび息が首筋にかかってくすぐったい。不意に、唇の感触。そして小さく痛みが走った。

「こらっ。」

「‥‥痕、ついちゃった」

「つけたんだろっ!」

被さるように乗られているから顔が見えない。彼の表情がわからない。

「ひあっ」

そろりと首を舐められ、濡れた感触にゾクッとした。

「なに舐めてんだよっ」

「んー。そこに首筋があるから?」

「‥‥ブッ!」

あははっ。まったく‥‥! 彼は顔を上げて「ウケた?」なんて聞いてくる。

「ウケたよ」

氷沼くんは微かに笑み、再びぼくの首筋に顔を埋めて唇を這わせ、とんでもないことを囁いた。

「絢都‥‥また、してやろうか‥‥?」

耳元に、低い、声で。

「──ッ!」

ぼくは反射的に体を硬くする。

彼はまだ首筋への愛撫を止めない。時折耳元まで舌を這わせてくる。

じつは前に一度、彼にヌかれてしまったことがあるんだ。2週間前くらいだったかな。その時ぼくは発作を起こしてて‥‥彼にされるがまま‥‥。

ぼくは何も感じなかったのに、ぼくの息子はちゃんと感じてたみたいで‥‥勃起して射精までできたんだ。ぼくは事故からそれまで一度も自分の性のことを考えていなかったから、というか忘れてたから、イけることがわかって嬉しかった。一通りできたのは麻痺が軽度だという証拠なのだろうか。それとも彼の舌技がすごかったのか? それを知る術はない。いや、あるか‥‥?

「氷沼‥く‥‥」

「OK‥‥でしょ、絢都」

彼は言うなりキスしてきた。いつもの、甘ーいキス。

あっ‥‥あ。

なぁっ、氷沼くん‥‥っ。これって友達超えてないか‥‥? なあ‥‥っ?

そもそも友達だと思ってるのはぼくだけで、彼にしてみれば生殺しの状態なのだから‥‥熱がこもってるのもわかる‥‥気がするけどっ。

あんっ。あっ、すごい。

「やっぱり発作起きてる時とじゃ反応違うね」

「ひ、ひぬまくんっ、これ、前と‥‥同じやり方‥‥!?」

「? うん。だいたい同じだよ。変える?」

や、そうじゃなくてっ。

ぼくは首を振る。

ああっ、はぁ‥‥っ。は、あっ! イっちゃう! ‥‥っ。

氷沼くんはぼくの腹に飛び散った精液をティッシュで拭き取ってくれた。

「気持ちよかった?」

そんなこと聞かなくてもわかるだろっ。ぼくは恥ずかしくなり、顔をそらす。

「絢都?」

氷沼くんはぼくが顔をそむけている方向から覗き込んできた。そらしてる意味ないじゃないか、コノヤロウ。

「好きだよ、絢都」

‥‥百回くらい聞いたよ。

「‥‥やっぱ、氷沼くんがすごかったんだ」

ぼくはつぶやいた。

「?」

「前ん時はぼくの麻痺が軽いからイけたのかな、とか思ったけど‥‥」

そう言ったら彼はどう捉えたのか、いきなりぼくに被さって抱き締めてきた。

「もうホント大好き、乃井くん! あ、思わず乃井くんて言っちゃった」

あはは。自分で突っ込んでるし。

―――で。ぼくの股間に当たってるこのカタイモノは‥‥。

「氷沼くん‥‥大変なことになってないか?」

「あ、わかる?」

彼はニッコリ笑った。

「って、こすりつけんな〜〜。服汚しちゃうだろ」

!! 下を見たら、彼は下半身パンツ一丁になっていた。いつの間に脱いだの!?

「絢都、続きしよ? ね。」

ね。じゃないよー! それに続きって何だよ!? きみがぼくにしてくれたみたいになんてできないぞっ。ムリムリっ。

そんな風に考えてたら、氷沼くんはぼくのお尻を触ってきた。

‥‥まさか‥‥!?

まさか――――――っ!!?

うろたえるぼくを笑顔で制し、彼は蕩けるような甘ーいキスをくれた。

ぎゃ―――――!!

ぼくがそこを許したら、マジで友達超えちゃ‥‥っ。

ああっ‥‥。

「氷沼‥‥くん‥‥」

「奏路って呼んでよ」

「‥奏路‥‥」

「愛してるよ、絢都」

きみとの関係が深まるにつれて、ぼくだってある程度予測してはいたけれど、ひどいじゃないかっ。こんなの強引すぎるよ。ぼくが引いてた境界線をいきなり飛び越えてくるなんてあんまりだ。‥‥でもぼくはどうして拒めなかったんだろう。

やんわりとキスされる。そのうち痛いのか何なのか分からなくなり、ぼくはもうれつな眠気に襲われるようにダウンしてしまった。

彼の体温と、抱かれてる肌の気持ち良さを、ぼくは意識がなくても感じていた。



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