SWEET-躊躇いと純情-
-The hesitation and the pure heart- Field of love.


(6)



「乃井くん‥‥ぼく、きみのこと本当に好きなんだよ‥‥」

「友達になったばかりの頃にも聞いたけど?」

「もちろん友達としても好きだけど‥‥それ以上、ってこと」

っていうと‥‥?

‥‥。

まさか‥‥?

氷沼くんがじっとぼくを見ている。そういえば彼は以前からよくこんな視線を送ってきてた‥‥。

「‥‥ら、らいくじゃなくて、らぶ‥‥なのか?」

氷沼くんはゆっくりと一回まばたきをした。

どひーっっ! じゃ“落ちた”って、フォーリンラヴってこと!? まじかよ。

氷沼くんが距離を詰めてくる。彼の髪の影が落ちる。呼吸が掛かる。

キスされるっ。と思ったその時、氷沼くんの携帯の着信音が鳴った。

ぼくたちは目を見合わせ、音の聞こえるテレビの方を見た。

「そこにあったのか!」

氷沼くんが携帯を拾い上げ、通話する。

「はい。課長! あー、すみませんダメです。乃井くんといますので‥‥ハイ、ハイ。では」

通話を切った後、彼は言った。

「3課長がこれから飲みに来いって。断ったよ」

それは、ぼくといるから?

「氷沼くん、携帯‥‥不携帯だったんだ」

ぼくは彼の携帯が通じなかった理由が分かってホッとした。

「うん。今日会社に着いてから気付いてね‥‥。わ、乃井くん3回も電話くれたの」

氷沼くんが着信をチェックして笑った。

「だって‥‥」

なんだか恥ずかしくなり、目線を外して拗ねてやる。

「かわいいね、乃井くん」

不意を突かれて、チュッとぼくの唇に彼のそれが触れた。ぼくの頭の中が一瞬真っ白になる。

「───っ!!」

こいつ本当にキスしやがった!

「なななななんてことをっっ。ぼくらは男なんだぞ」

ぼくは口を隠して彼を突っぱねようとした。

「男同士だって普通キスくらいするでしょ」

「普通はしないよぅ!」

ぼくはそこんとこは否定したが、彼のほほ笑みの奥に何か別のものを感じておののいた。

「今したじゃない」

「氷沼くんのは普通じゃないんだろっ。何か、やましい下心が!」

ぼくとの距離を縮めてくる彼を両腕で押し返してはいるが、力の差は歴然だ。

「恋は下心ってね」

「氷沼くんっ! コラ」

じりじりと詰め寄られ、両腕も封じられ‥‥。

「乃井くんだって抵抗しないし」

してたよっ!

あ、でも何で止めちゃたんだ、ぼく。‥‥んっ。視界いっぱいに、ドアップの氷沼くん‥‥。

甘い、なぁ‥‥。

唇が離れた後ゆっくりと目を開くと、彼もゆっくりと目を開いていて、目が合ってしまった。



「好きだよ、乃井くん」

わかったよ‥‥。今のキスでわかった。きみ、料理にするみたいにキスにも愛情込めただろ。こんな甘いキス、したことないや。

きみに尽くされることにやっと慣れてきたところだったのに、追い討ちだよ。ラヴの領域で好かれるなんて‥‥。でもぼくにはきみが必要だと思うから‥‥そう思うから。

「うん‥‥。ぼくも好きだよ、友達として」

そう言ったら、彼の表情が少しだけ失意に染まった。ごめん氷沼くん。ぼくには時間が必要だ。時間が経ったところできみに応えられるかわからないけれど‥‥今すぐになんて、応えられないから。

気の抜けている彼にぼくは言ってやった。

「なんだよその顔ー! イヤなのか? 友達だって普通にキスくらいするんだろ」

やっぱり彼は大事な人だ。失いたくないのは、ぼくの方。だから、さっきは否定したそこんとこを譲歩してやることにしたんだ。そうしたら彼の表情がぱぁっと明るくなって、じゃれるように跳び付いてきた。

「だから好きー! 乃井くん!」

なんだか氷沼くんはでっかい猫みたいだ。なつっこい虎かな?

このまま好きだと言われ続けたら、ぼくもそう思い込んじゃったりするかもしれないよ、氷沼くん。

「ぼくがピンチのときは飛んできてくれよ」

「そりゃぁもう超特急便で! 特急便からパワーアップだ」

あはは。すごいな、特急超えちゃうのかよ。

「あー、でも仕事ほっぽって来ちゃだめだからな」

彼ならやりかねない。

「えー! 超特急の意味ないじゃん」

ホントにほっぽって来るつもりだったのか?

「氷沼くんはぼくのために時間取り過ぎだろ。このままじゃ会社にもマズイんじゃないか?」

そう言ったら、彼は「にひっ」と笑った。

「乃井くんの介護は公認だから大丈夫。さっきも3課長から電話あったけど、乃井くんといるって言ったら即釈放だったでしょ。あのしつこいスッポン3課長がだよ」

「それは‥‥ぼくも、あれっと思ったけど」

氷沼くんの上司である3課長がどんな人かはぼくも知ってるし。でもぼくはもう会社の人間じゃないんだぞ。

「ウチの会社ってそういうトコじゃん。上司みんな人情派で」

「そういやそうだね‥‥」

会社の厚意もありがたく受け止めておこう。助けられるのはぼくなんだ。


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