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彼の車で移動した先は、小洒落たイタリアンレストラン(リストランテっていうのか?)だった。
「ぼくだったら事情知ってるし、乃井くんの助けになれると思うんだ。これからは友達として甘えてくれていいからね」
カルピスとオレンジジュースで乾杯をした後、彼はそう言った。
「今日は本当にありがとう。‥‥あのさ、ここにきて何だけど、ぼくたち初対面‥‥」
「だからこうしてお祝いしてるじゃん」
「じゃなくて、ぼくきみのこと知らない‥‥」
「あ、そっか。ごめん早とちりで」
彼はジュースでのどを潤すと、仕切り直して話し出した。
「改めまして。3課で資材担当をしてる氷沼奏路(ひぬま そうじ) 25才乙女座O型です。趣味はドライブと風景写真。好みはぼくに甘えてくれる人とぼくを頼ってくれる人。人で言ったら乃井くんみたいな人」
そこまでスムーズに喋る彼に向かって、ぼくは危なくジュースを吹きかけるところだった。
「やだなぁ乃井くん。友達としての好みだよ」
ははっ、と彼は笑った。からかったのかよ?
「わかってるよー」
誤魔化したけど、これじゃあ誤魔化し切れてないよな。勘違いのぼくが恥ずかしいじゃないか。
「では乃井くんもお願いします」
振られてドキッとする。「面と向かってだと恥ずかしくないか」と聞くと、「いいから気にしないでどーぞ」と笑顔で言われた。
「乃井絢都(のい けんと) 22才、水瓶座、A型。‥‥1課で人事やってます。あーと、」
「趣味は?」
詰まってしまったぼくに彼はすぐフォローをくれた。
「趣味は読書かなぁ。ゲームもよくやるし、インドアだね」
おー、と彼から小さな拍手をもらってぼくは続けた。
「氷沼くん、25才なんだ。先輩じゃないですかー。敬語使わなきゃ」
「いいよそんなの。ていうかぼくたち同期だし」
「え、入社同期!?」
「知らなかったでしょ。ぼくらんとき100人くらいいたもんね」
ぼくたちの代は97人入ったんだったっけ。その同期達も今じゃ全国津々浦々散り散りで、本社に残ってるのはぼくを含めて10人くらいだ。
「なんで今まできみの事知らなかったんだろ。まかりなりにも人事やってるのぼくなのにな」
「乃井くんはずっと1課じゃなかったでしょ。ぼくなんか入社以来ずっと3課だもん。だからじゃないかな」
何で彼はぼくのこと知ってるんだろう? いくら事故で有名になったからって、ぼくが他課転々としてたことまで話題になりそうもないけど‥‥。これは言わなくてもいいことだと思ったから、口には出さなかった。
「そっかぁ。」
「あ、乃井くんの好みのタイプ聞いてないよ」
「それも言わなきゃいけないの?」
うんうんと頷く彼にぼくは「一緒にいても気分悪くならない人」と答えた。
こうみえてぼくは極度の人見知りで、人に近寄られるのが好きじゃない、というか苦手だったりする。そして、ウマも体質も合わない人間ともなると気分が悪くなるんだ。
この体質のせいで一度だけ、だるさと吐き気がドカッときてぶっ倒れたことがある。ぼくは理想より現実見なきゃダメなんだよなぁ。
「そんなの、誰でもそうじゃん。何か、これでなきゃだめってポイントないの?」
誰でもぶっ倒れることはないと思うけど、と密かに思う。それにしてもやけに突っ込んでくるなぁ。
「ポイントかぁ。ぼくがこんな障害持ちでもOKって人なら尚良し」
答えてから“好みのタイプ”とはちょっと違うかと思ったが、友達としてのタイプなら障害持ちでもいいって言ってくれる人がいいし‥‥これでいいのかな。
「そんな下手にでることないよ。乃井くんはほとんど普通だし。ぼくはきみの好みの友達になれそうだよ。これからもよろしくね」
そう言った彼は笑っていた。彼はこの時既にぼくの体質のことを了解してくれていた。そしてぼくを認めてくれていたんだ。
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