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†…†…†
おれは今年、十八歳になったら独り立ちするという孤児院のならわしに従って一人暮らしをはじめた。新しい家は、部屋がひとつしかないけどロフト付きで天井の高い小さな一戸建てだ。
生活は、産まれてからずっとおれの家だった孤児院の大所帯から百八十度変わって、ひっそりとしたものになったわけだが、寂しいとは思わなかった。
孤独には、慣れてる。
「蒼」…おれの第一印象。長く膝まで伸びたおれの髪の色だ。このせいでおれは子供のころから他人に奇異の目で見られ続け、これからも普通の人間だと認められることはないだろう。
自分のコンプレックスで他人に馴染めなかったおれはずっと孤独だった…。だから、独りは平気だ。慣れた。寂しいなんて思わないさ。
そういえば誰かが言っていた。おれを産んですぐに死んでしまった親も蒼い髪だったって。おれの親もおれと同じ思いをしていたのだろうか。
「ヒサシ!」
神火(シンカ)だ。おれの数少ない友達のひとり。
今宵は待ちに待った年に一度の雨乞い祭。一緒に行く約束なんだ。
「今行く」
おれは素肌に纏布(てんふ)を羽織り、扉を開けた。
「なんだよヒサシ、普段着かぁ? 祭りの日くらいお洒落しろよ」
そう言って戸口に手をついたシンカは、普段着ている纏布ではなく、地祇伝統の長衣姿だった。ふぅん、読めたぞ。ついに腹決めたんだな、シンカ。でもおれは気付かないふりをしてやる。
「なんかそういうの、暑苦しくないの? わざとらしくておれはヤだね」
そっぽ向いてやったら、シンカはぐいっとおれの肩をつかんだ。
「わざとらしいとはなんだ。由緒正しい服だろうが〜」
「気合入ってんじゃん?」
おれはニヤリと見上げる。くやしいけどシンカのほうが背が高いんだ。
「あっ、お、おう!」
シンカは真剣な目になった。
「き、決めたんだよ」
うん。
「オレ、今晩フーガに告白するっ!」
風牙(フーガ)は村のアイドルなんだ。おれと同い年で孤児院育ちだけど美人で気立ても良くて、村一番の人気者といっても過言じゃない。おれはシンカがフーガを好きだってことは前々から気付いてた。
「おまえがぁ? ふっ」
「あぁ? 笑いやがったな」
「おまえもわかってると思うけど、フーガ競争率高いぞー。まぁ頑張れよ」
「まさかヒサシもフーガのこと…!?」
「狙ってないよ。フーガは一緒に育った兄弟みたいなもんだからな」
ホッと肩をなでおろすシンカ。祭り会場に向かう道すがら、彼はちょっと緊張した面持ちだった。
「シンカ、自信もてよ。おまえいい男なんだからさ」
「うん、ありがとう」
シンカはおれの友達の中では唯一両親が健在だ。広いこの村で、知り合ったきっかけはやはりおれの蒼い髪だったけど、シンカの目は奇異なものを見る目じゃなかった。
人懐こくて素直でなかなか誠実な彼は、自慢の友達だと思ってる。当のシンカには死んでも言わないけどな。それにシンカは見た目も悪くないんだよ。スタイルもいいしさ。
おれとしてはフーガにおすすめしたいシンカだけど、気がかりなことがある。おととしフーガは村一番の金持ちのところに引き取られたんだ。それが吉と出るか凶と出るか…。ラッキーガールはシンカをどう思ってるのかな。
うまくいくといいな。
「よォーッシ! オレはやるぞ!」
シンカが気合を入れたその時。
ヒュゥゥゥ…
ドーン…
青い縁取りの美しい火の花が一輪、闇に咲いた。
花火は続けざまに打ち上げられていく。去年からまた一年。おれが有翼人を見てからもう十年経ったんだ。おれはあれからずっと髪を伸ばしてるんだよ天使さん。…ああ、会いたいな。
「はじまったなー。なんか飲むだろ、買ってくるよ」
「たのむよ」
シンカが祭りの人ごみの中消えていくのを見ていたら、ふいに目の前に、ふわりと白いものが降ってきた。手のひらに舞い降りたそれは羽根だった。…ぼろぼろの羽先の。
「…これ…っ」
周りを見渡したけど、羽根をもつものなんてどこにもなくて。
「まさか、な。」
「おまえ、その羽根が視えるのか」
後ろから男の声がした。おれは自分でも驚くほどのすばやさで振り返った。
息を飲んだ。
十年前とまったく変わらない姿の“彼”が、そこにいた。
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