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2、仙至(ヒサシ):砂漠に埋もれた約束
†…†…†
おれ、仙至(ヒサシ)が生まれ住む砂漠の村地祇(チギ)には、古くから有翼人の伝説がある。それはたしかこんな感じだ。
『翼を秘めし者
沙の地に至り
安そそぎかえる』
「翼を秘めし者」というのが有翼人のことで、「秘めし」とは翼を隠してるということではなく、人の目には見えないものだと解釈するらしい。人間の目が翼を認識することができないというのだ。
そんな有翼人が「沙の地」つまりここ地祇に来てホッとする、ってことなのかな? おれは正しい解釈を知らないけど、そんな昔からの言い伝えなんて今では信じる人も少なくて、話題にすれば馬鹿にされる伝説に成り下がり、信憑性は問わないのが現在の常識になってしまっている。
だけど、おれは出会ったんだ。ちぎれたぼろぼろの翼を背負った「人間」に。
そのときの記憶はどうしても忘れられず、十年経った今でも鮮明に覚えている。
あれは、年に一度村を挙げて催される雨乞い祭の夜だった。八歳の子供だったおれは、メインイベントの花火会場から去る途中、夜の闇の中に一点、ぼんやりと白いたたずまいにふと目を奪われた。白いものは、花火の明かりの届かない道端木陰に“いた”。
立ち止まったおれに、“彼”はゆっくり近づいてきて、「美しい、髪だな」と言った。何かを失くしたような静かで切ない声色だった。深く澄んでいて儚げだった。
飛べない天使だと思った。
“彼”は、人の年でいうなら二十五歳くらいの青年だった。背が高くて、真っ白な短髪と同じくらい白い長衣が包む肌は浅黒く、左目を黒い眼帯で覆い隠している隻眼は切れ長で、鼻梁もすんなりと高く、涼しげな顔立ちをしていた。
唯一人と違うのは…、“彼”が傷ついた翼を背負っていることだった。…ちがう、背負っているんじゃない。生えているんだ。そのぼろぼろの翼は、彼の体の一部なんだ。幼い自分は直感した。
そして彼の右瞳を見た瞬間、本来そこに宿っているはずの生命力を見出せなくて、おれは胸を締めつけられていた。締めつけられたというより、鷲づかみされた気分だった。
彼は闇にとけるように姿を消してしまったけれど、この日を境におれの体に異変が起こった。それまでは健康そのものだったおれの左肩に、時折痛みを伴って痣が現れるようになったんだ。
†…†…†
「つ…ッ」
左肩の痛みを反射的に右手で押さえる。
一瞬の痛みが治まって右手を退けると、紅く、なにやら模様が見て取れる。おれが成長するにつれ、痣だと思っていたそれはだんだんはっきりと模様らしくなってきた。
いつもは浮き出た模様はすぐに消えてしまうのだが、最近おかしい。痛む回数が極端に増えて、赤みも増して模様がかなりはっきりしてきた。
一定長の直線と曲線で構成された文字とも絵とも見て取れる不思議な模様。これは何かを意味するものなのだろうか。
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