「そんなことがありますかっ!だいたいなんであたしが、あんな女ったらしと仲良くしなきゃいけないの。今日はたまたま、声を掛ける女があたししか、いなかっただけでしょ・・・」
胸が苦しくなってきて、言葉がとぎれとぎれになる。
そんなあたしを見て母は、どーしたの、って顔でのぞき込んでくる。
「おかーちゃん、あたしね、今日いろんなことがありすぎて・・・胸が苦しいんだ。どうしたらいいんだろう」
切なくて、気が付けば翼空先輩のことを考えてる。メガネの奥の、何もかも包み込んでしまう瞳の優しさが、あたしの心にときめきを運んでくる。・・・そう、これがときめき・・・。
ふぅ、と息を吐いたら、母に抱き締められた。
「紗綾もちゃんと女の子だったのねぇ。おかーちゃん嬉しい」
「なッなに?・・・濡れちゃうよ」
「いーわよ。だって紗綾、恋したんでしょ」
ついに!と喜んで胸の前で手を打つ母。
「日下先輩にも言われた」
「え、日下くんじゃないの?じゃあ誰なの。当然格好いいんでしょうね」
そんなのどーでもいーじゃん。もうどうにかして、うちの母。
「う〜、優しい人!お風呂入る!」
あたしは逃げ出した。
「キャーッ」
突然クラスが騒然となった。
「なんで!?紗綾、日下先輩が呼んでるよ!」
一重に揺り動かされて、お昼寝中だったあたしは目をこすって起きた。
一重があたふたしている。
「紗綾、何したのよ!?」
日下先輩がクラスの入り口であたしを手招きしてた。慌てて立ち上がった。
「起こしてごめん。ホイ、これサンキュ」
渡された紙袋には、昨日貸したタオルが入ってた。
「あ、わざわざすみません。こんなへんぴな所まで」
届にきてくれたんだ。
「いーのいーの」
と言って先輩は、あたしの耳元で誰にも聞こえないように囁いた。
「翼空のことさ、知りたけりゃ教えるぞ」
あやうく硬直するトコだったけど、バックグラウンドが騒がしくて持ち直した。
「は、はい」
先輩は、たじろぐあたしにニッといつもの笑みを見せて去った。振り返ると、顔を赤らめた一重がいた。
「紗綾ぁ、なによー、どーいうこと?」
翼空先輩のこと、教えてくれるって・・・
一重に揺さ振られて正気に戻った。
「昨日一緒に帰っただけだよ」
先輩ったら頼りになるなぁ。
翼空先輩、もっとあなたのことが知りたいです。バレーやってる以外のことも、もっと。そして優しい瞳であたしを見てほしい・・・。
「どっどーゆーことよ!?紗綾!?一重さんに詳しく教えなさい!」
興味津々の一重に、どこからどう話そうかな。
きになるあのこ 前編 終わり
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