きになるあのこ 前編(7)



「そんなことがありますかっ!だいたいなんであたしが、あんな女ったらしと仲良くしなきゃいけないの。今日はたまたま、声を掛ける女があたししか、いなかっただけでしょ・・・」

 胸が苦しくなってきて、言葉がとぎれとぎれになる。

 そんなあたしを見て母は、どーしたの、って顔でのぞき込んでくる。

「おかーちゃん、あたしね、今日いろんなことがありすぎて・・・胸が苦しいんだ。どうしたらいいんだろう」

 切なくて、気が付けば翼空先輩のことを考えてる。メガネの奥の、何もかも包み込んでしまう瞳の優しさが、あたしの心にときめきを運んでくる。・・・そう、これがときめき・・・。

 ふぅ、と息を吐いたら、母に抱き締められた。

「紗綾もちゃんと女の子だったのねぇ。おかーちゃん嬉しい」

「なッなに?・・・濡れちゃうよ」

「いーわよ。だって紗綾、恋したんでしょ」

 ついに!と喜んで胸の前で手を打つ母。

「日下先輩にも言われた」

「え、日下くんじゃないの?じゃあ誰なの。当然格好いいんでしょうね」

 そんなのどーでもいーじゃん。もうどうにかして、うちの母。

「う〜、優しい人!お風呂入る!」

 あたしは逃げ出した。






「キャーッ」

 突然クラスが騒然となった。

「なんで!?紗綾、日下先輩が呼んでるよ!」

 一重に揺り動かされて、お昼寝中だったあたしは目をこすって起きた。

 一重があたふたしている。

「紗綾、何したのよ!?」

 日下先輩がクラスの入り口であたしを手招きしてた。慌てて立ち上がった。

「起こしてごめん。ホイ、これサンキュ」

 渡された紙袋には、昨日貸したタオルが入ってた。

「あ、わざわざすみません。こんなへんぴな所まで」

 届にきてくれたんだ。

「いーのいーの」

 と言って先輩は、あたしの耳元で誰にも聞こえないように囁いた。

「翼空のことさ、知りたけりゃ教えるぞ」

 あやうく硬直するトコだったけど、バックグラウンドが騒がしくて持ち直した。

「は、はい」

 先輩は、たじろぐあたしにニッといつもの笑みを見せて去った。振り返ると、顔を赤らめた一重がいた。

「紗綾ぁ、なによー、どーいうこと?」

 翼空先輩のこと、教えてくれるって・・・

 一重に揺さ振られて正気に戻った。

「昨日一緒に帰っただけだよ」

 先輩ったら頼りになるなぁ。

 翼空先輩、もっとあなたのことが知りたいです。バレーやってる以外のことも、もっと。そして優しい瞳であたしを見てほしい・・・。

「どっどーゆーことよ!?紗綾!?一重さんに詳しく教えなさい!」

 興味津々の一重に、どこからどう話そうかな。




きになるあのこ 前編 終わり


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