きになるあのこ 前編(1)



「園生(そのう)センパイ、これ、受け取ってくださいっっ」

 四月の昼下がり、中庭のベンチでのほほんと春ボケしていたあたしに、後輩の女の子が小さな包みを突き付けて去っていった。

「今日3人目?紗綾(さや)」

 近付いてきたのは、双林一重(そうりん ひとえ)。クラスメイトで、あたしの友達。

「うんにゃ〜、4人目」

 もらった包みを開けながら答えると、一重は指折り数えだした。

「朝の後輩の女子でしょ、それから後輩の男子、今の女子・・・あと一人は誰よ!?私の知らない間に」

「1限の終わりに先輩からね。・・・『ステキな園生センパイへ』・・・」

 包みの中身は、そうかわいい字で書いてあるメッセージカードと、ハート型のチョコレートだった。

「バレンタインでもないのにねぇ」

 メッセージカードを盗み見した一重は、にんまり笑って続けた。

「そーよねー。カッコイイもん、紗綾は」

「これでもれっきとした女なんだけど・・・」

「女でもモテるのよ。なんてったって1年の時からバレー部のレギュラー、2年の今じゃエース張ってこの顔、このスタイルっしょー?」

 モテないのがおかしいわよ。という一重に抗議してみる。

「そんな言い方されたら頭までキンニクでできてるみたいだよ」

 バレーは好きで中学から続けてるんだけど、好きこそものの上手なれってやつかな。練習してだんだん上手くなってきたんだ。高1でレギュラーもらっちゃって、下手なプレーできないと思ってもっと練習して・・・今ではエースになっちゃったんだよね。顔とかスタイルとかって言われるけど、みんなよりもちょっと眉が太くて背が大きいだけなのになぁ。

「ちょっと紗綾、チョコ見つめながら目キラキラさせないでよー。チョコは恋人?」

「人じゃないよん、好物だよん」

 えへへ。これさえあれば生きて行けるのだ、あたしは。

「異常なまでのチョコ好き。もうチョコ狂だね。でもさ、紗綾って好きな人本当にいないの?」

 うっ・・・図星。

「そーゆー一重は今日は日下(くさか)先輩に会ったの?」

「まだなの〜」

 泣き出しそうになっている一重を見ながらあたしは笑った。

 一重に言われたように、あたしには好きな人がいない。トキメキっていうものを感じたことがないから、それがどんな感覚なのかわからない。そもそも、好きな人って必ずいなきゃいけないものなのかな。

 一重の憧れている3年生、日下千尋(くさか ちひろ)先輩は学校では知らない人はいない有名人。「均整のとれた体つきで顔のパーツは形がきれいでバランスよく並んでて、頭もよくてスポーツ万能っ!ああ〜っ日下先輩っっ」とのたまう一重は日下先輩にゾッコンで、崇め奉っちゃってる。思うに、女子のほとんどが日下千尋フリークなんじゃないかな・・・。あたしが見てもあそろしく綺麗な男の人。でも綺麗ってしか思えないなぁ。いつも女連れの遊び人だしね。

「そろそろ5限始まるよ、一重」

「あ、うん。ねー紗綾、6限の課題やってきた?」

「うん。・・・忘れたな?」

「昨日は気持ちよく寝ちゃってた」

 と言って一重は少し舌を出す。表情豊かでかわいいなぁ。

「しょーがないなぁ。あ!あれ」

 校舎に戻ろうとしたら、出入口を入った廊下を、日下先輩がオネーサマ4人を引き連れて歩いていた。

「あー、またいちゃついてるぅ」

「気にすることないって、いつものことなんだから。だいたいねぇ、若いミソラで女はべらせてニヤけてる男のどこがいいのよ?」

「ぜ〜んぶv」

 ハート付きかい。

「おい」

 はッ・・・振り返ればなにやら壮絶な美形がそこに。一重に目をやったら、案の定うっとりして手を組んだまま固まっちゃってるし。

「な、なんでしょう」

 オネーサマたちはいつのまにかいなくなってる。

「おまえ、園生紗綾(そのうさや)だろ?バレー部でチョコ命の」

 日下先輩はそれだけ言って、あたしが園生紗綾だってことの確認もしないで行ってしまった。

 なにごと!?一体なんだったの?

「一重っ、授業始まっちゃうよ」

 まだ目をハートにしたままだった一重を揺さ振って正気に戻し、教室までダッシュした。



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