「園生センパイ、ファイトでーす」
はいはーい。
いつも部活が終わる頃に体育館を訪れる応援の一団に手を振って応える。チョコとファンレター、いつもありがとねって。
「キャーッ」
歓喜する集団と、練習中のバレー部員に笑いかける。いつも迷惑かけてすいません。先輩たちもいるから気遣っちゃう。以前、集団が練習の邪魔にならないかキャプテンに訊いてみた事があるんだけど「うちらも結構気合入るし」って言ってくれた。そうは言ってもきっと練習し辛いよね・・・。あたし自身、あまりの声援に照れてしまうほどだもん。
整理体操と後片付け、ミーティングが終わったら、みんなでコートの中央に集まって気合入れして、最後にコートのサイドライン沿いに一列に並んでコートに礼して部活動終了。
「はふーっ」
なんて息を吐く暇もなく。
「園生センパイ、お疲れさまでした」
「紗綾ちゃんオツカレ!」
今日もあたしの腕の中にチョコレートの山が築かれていく。
「どーもありがとう」
笑うと、みんな喜んですぐ帰ってくれる。
「いーよね、紗綾のファンたちは。ベタベタ寄ってこないし」
「疲れてるから迷惑するだろーって考えてるんだったら、相当エライね」
とは先輩たちの意見。
「そーですね。そーだとうれしいです」
あたしはもう、チョコの山にホクホクなのです。
「この幸せそうな顔〜」
「お先にね、紗綾」
「はいー、お疲れさまでしたー」
「紗綾、帰る?」
チョコをトートバッグに入れながら、あたしは用事を思い出した。
「図書室寄んなきゃいけなかったんだ。先帰っちゃって。鍵はあたし閉めてくから」
本を返したら、もう少し練習していこうかな。
体育館から図書室までは、中庭を突っ切っていくのが近道。途中、忘れていた制服を取りに教室に寄ってから中庭の方に歩いていくと、ふと、ベンチに横たわる何かが視界に入った。
夕暮れが影をより濃く映し出して、少しの恐怖心と好奇心を湧き起こした。
人・・・?
近付くと、それは日下先輩だった。
「なんで寝てんの・・・?」
こんなとこで。しかもすごい綺麗な顔で。こんな人にドキッともしないあたしって、やっぱズレてんのかなぁ・・・。一重たちが憧れる気持ちはわかるんだけど。
「日下先輩!」
先輩は、声を掛けてもぴくりとも動かないで寝息だけ立ててる。
「風邪ひいちゃいますよ」
あたしは小脇に抱えていた制服のブレザーを先輩のおなかに掛けて、図書室に向かった。
閉室寸前の図書室で返本手続きをして、また中庭を通って体育館に戻ろうとして思い出した。
「そーいえばブレザー・・・?」
あたしってば何やってんの!?ただの先輩なのにっ。
途端に恥ずかしくなって走って中庭に来たけど、ベンチに先輩は・・・いない!?
外はさっきより暗くなってて、どんよりと雲が重たそうに垂れ下がっていた。
「それはやばいよ!」
思わず叫んだら、後ろから声が返ってきた。
「やばいかもな」
うっ、日下千尋だ・・・。おそるおそる振り返る。
「よォ、モテモテの園生さん」
「いやあ、先輩にはとてもかないませんよー」
あははは。二人で作り笑いをする。
「そんなの当たり前だろ。おまえは後輩、しかも女」
「よくわからない理由ですねー」
言ってから、しまった!と思った。
「・・・オレに口ごたえする気?」
ひぃっっ目が据わってるよう!怖いよう!顔が綺麗だから凄みがっっ。首が勝手に左右に振れる。
「おまえ失礼だよなぁ。オレ先輩様だぜ。第一後輩のくせに人気あるってのが気にくわねー。それに、女はべらして何が悪いってんだよ」
やば。昼の一重との会話、聞かれてたんだ。
でもあたしのこと、人気があるから気にくわないって。へんなの。負けず嫌い根性が出てきちゃったよ。
「先輩とは住む世界が違いすぎて、平民は陰口がせーいっぱいなんです」
先輩とにらみ合いになったけど、先に折れたのは先輩だった。
「・・・ははっ、冗談だよ気にすんな。オレもおまえがモテようがオレの陰口たたこうが気にしねーから。後でトイレ行って、愚痴と一緒に眉間のシワも流しとけよ」
へ?水に流せってことだよね?眉間のシワ・・・触ってみる。
「シワなんてねーって」
先輩は嘲笑ってる。はめられた!?
「やっぱおまえ変だよな。ろくに知らねえ男にブレザー掛ける女っていねえよ、普通」
ああっ忘れかけてたことをっっ!
「用済みですねッ、ご利用ありがとうございましたッ」
先輩の手中にあったブレザーをひったくった。
「それではごきげんようッ」
回れ右っ、前へ進めっ!
もー、恥ずかしい。なんなのこの人。そもそもあたし!日下千尋の嘲った顔が目に浮かぶようだわっ。ああ悔しい!
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