きになるあのこ 前編(3)



 体育館に戻って用具室からボールかごを引っ張り出す。

 やみくもにサーブを打つ。

 こんにゃろ〜っ、日下千尋めえっっ。

 あースッキリした。

 汗を拭いて一息ついていたら、入り口の扉が開いた。

「やっぱり園生ちゃんだ」

 ドキッ・・・男の人?誰だろ。

 ドキドキ・・・なに、この心臓。

「明かり点いてたから来てみたんだけど。いつもこんな遅くまでやってんだ?」

 フチなしのメガネ、優しい瞳に吸い込まれそうな笑顔・・・まぶしい。さっきからドキドキが鳴り止まない。耳もとで、うるさいくらい。

 男の人が近付いてきて、見上げる距離になって誰かわかった。

「翼空(たすく)先輩!?メガネかけてるから誰かと思っちゃいましたよー。別人ですねぇ」

 永瀬翼空(ながせ たすく)先輩。男子バレー部でポジションはライト。見てるだけで上手いってわかるほどに線のきれいなバレーをするんだ。いつも穏やかで優しくて、ナゴミ系として女子には人気。日下先輩を崇拝して、本命は翼空先輩って人が結構いたりする。あたしからみれば、少し繊細な感じに見える。

「いつもはコンタクトなんだけどね、調子悪くて。それより、外すごい雨だよ」

「雨降ってるんですか?こんなに明るいのに」

 空気が光ってる。雨の音だって聞こえない。心臓の音で、何も聞こえない。

「何言ってんの園生ちゃん。外真っ暗だよ」

「翼空こんなとこにいた・・・あれ、園生まだいたの?」

 聞き覚えの得ある声の持ち主が翼空先輩の背中に抱きついて、あたしに気付いた。

「日下先輩こそまだ帰ってなかったんですか?」

 どうして日下先輩と話すと喧嘩腰になっちゃうんだろう。

「聞いた翼空!?こいつオレに口ごたえすんだよ。シツケがなってねーよ!?バレー部」

「そーいう問題?そうだ千尋、傘使うだろ?」

 翼空先輩は漫才めいた会話をいとも簡単に止めて、こうもり傘を日下先輩に渡した。

「おー、おまえはナイスだよ」

「じゃ、気をつけて帰りなよ、園生ちゃん」

 そう言って翼空先輩はニッコリと笑った。

「あ、ハイ。お疲れさまでした・・・」

 まぶしい空気を纏いながら、翼空先輩は行ってしまった。

「さて。・・・オイ、」

 行っちゃった・・・

「オイ」

 美しい顔・・・ギョギョッ!

「日下先輩!?どうしたんですか」

 きれーな顔でのぞき込まないでよ!びっくりしちゃうよ。

「そりゃこっちが聞きてーよ」

 何で不機嫌なの?あたし、なんかしたっけ・・・?

「あれ、外真っ暗!?」

 あんなに明るかったのに。

「これから雨もっと強くなるってよ。早く着替えて・・・って、聞いてるか?」

「イッッ」

 いきなりほっぺたつねられた。

「ッたいじゃないですかっ」

「早く着替えて来いっつったんだよ。今度は聞こえたか?」

 日下先輩、怒ってるっ!?

「は、はいっ」

 すごい剣幕の日下先輩に追い立てられて、部室で着替えを済ませて戸締まりをした。

 後片付けと戸締まりをしに体育館に戻った。

「おせーよ」

 指に体育館の鍵を引っ掛けて回しながら、日下先輩は入口の階段に座っていた。

 なんでいるんだろ?

「後片付けが・・・」

 入口の扉に手を掛けたら、先輩が立ち上がった。

「やっといた。戸締まりもした」

 へっ?

 状況がよくわからないまま、突き出された鍵を受け取ったあたしを、日下先輩はさらに混乱させた。

「行くぞ」

「へっ?あの・・・」

 先輩は歩き出していた。慌てて背中を追いかける。

「あ、ありがとうございます」

 お礼を言うハメになってしまった。

 鍵を職員室に返して昇降口に向かう。・・・まだいるのかな。

「おまえ、傘持ってる?」

 やっぱりいた・・・。あたしはげんなりした。

「天気予報で雨降るなんて言ってなかったから・・・」

 外はどしゃぶりみたい。雨の音がすごい。

「帰っぞ」

「へっ?」

 さっきから意表を衝かれっぱなしです。

 翼空先輩から借りたこうもり傘をバサッと広げて、日下先輩は満足そうに言った。

「上等。ほら、早くしろよ」

 何を?

「うわばきで帰んの?」

 それって、一緒に帰ろうってコト?

 先輩はすでに靴を履き替えていて、あたしを見ていた。

「は、はい」

 急いで靴箱の戸を開けた途端、雪崩が起こった。

「ありゃ〜」

「お見事。オレよか多い」

 先輩が拍手をくれる。

「今日はちょっと・・・多いです・・・」

 あたしは足元に山を作った手紙たちを掻き集めた。

「それ、全部読むの?」

「読みますよ、励みになりますから」

 束になった手紙をトートバッグに収めたのを見てから先輩は「ふーん、エライね」と言った。



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