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体育館に戻って用具室からボールかごを引っ張り出す。
やみくもにサーブを打つ。
こんにゃろ〜っ、日下千尋めえっっ。
あースッキリした。
汗を拭いて一息ついていたら、入り口の扉が開いた。
「やっぱり園生ちゃんだ」
ドキッ・・・男の人?誰だろ。
ドキドキ・・・なに、この心臓。
「明かり点いてたから来てみたんだけど。いつもこんな遅くまでやってんだ?」
フチなしのメガネ、優しい瞳に吸い込まれそうな笑顔・・・まぶしい。さっきからドキドキが鳴り止まない。耳もとで、うるさいくらい。
男の人が近付いてきて、見上げる距離になって誰かわかった。
「翼空(たすく)先輩!?メガネかけてるから誰かと思っちゃいましたよー。別人ですねぇ」
永瀬翼空(ながせ たすく)先輩。男子バレー部でポジションはライト。見てるだけで上手いってわかるほどに線のきれいなバレーをするんだ。いつも穏やかで優しくて、ナゴミ系として女子には人気。日下先輩を崇拝して、本命は翼空先輩って人が結構いたりする。あたしからみれば、少し繊細な感じに見える。
「いつもはコンタクトなんだけどね、調子悪くて。それより、外すごい雨だよ」
「雨降ってるんですか?こんなに明るいのに」
空気が光ってる。雨の音だって聞こえない。心臓の音で、何も聞こえない。
「何言ってんの園生ちゃん。外真っ暗だよ」
「翼空こんなとこにいた・・・あれ、園生まだいたの?」
聞き覚えの得ある声の持ち主が翼空先輩の背中に抱きついて、あたしに気付いた。
「日下先輩こそまだ帰ってなかったんですか?」
どうして日下先輩と話すと喧嘩腰になっちゃうんだろう。
「聞いた翼空!?こいつオレに口ごたえすんだよ。シツケがなってねーよ!?バレー部」
「そーいう問題?そうだ千尋、傘使うだろ?」
翼空先輩は漫才めいた会話をいとも簡単に止めて、こうもり傘を日下先輩に渡した。
「おー、おまえはナイスだよ」
「じゃ、気をつけて帰りなよ、園生ちゃん」
そう言って翼空先輩はニッコリと笑った。
「あ、ハイ。お疲れさまでした・・・」
まぶしい空気を纏いながら、翼空先輩は行ってしまった。
「さて。・・・オイ、」
行っちゃった・・・
「オイ」
美しい顔・・・ギョギョッ!
「日下先輩!?どうしたんですか」
きれーな顔でのぞき込まないでよ!びっくりしちゃうよ。
「そりゃこっちが聞きてーよ」
何で不機嫌なの?あたし、なんかしたっけ・・・?
「あれ、外真っ暗!?」
あんなに明るかったのに。
「これから雨もっと強くなるってよ。早く着替えて・・・って、聞いてるか?」
「イッッ」
いきなりほっぺたつねられた。
「ッたいじゃないですかっ」
「早く着替えて来いっつったんだよ。今度は聞こえたか?」
日下先輩、怒ってるっ!?
「は、はいっ」
すごい剣幕の日下先輩に追い立てられて、部室で着替えを済ませて戸締まりをした。
後片付けと戸締まりをしに体育館に戻った。
「おせーよ」
指に体育館の鍵を引っ掛けて回しながら、日下先輩は入口の階段に座っていた。
なんでいるんだろ?
「後片付けが・・・」
入口の扉に手を掛けたら、先輩が立ち上がった。
「やっといた。戸締まりもした」
へっ?
状況がよくわからないまま、突き出された鍵を受け取ったあたしを、日下先輩はさらに混乱させた。
「行くぞ」
「へっ?あの・・・」
先輩は歩き出していた。慌てて背中を追いかける。
「あ、ありがとうございます」
お礼を言うハメになってしまった。
鍵を職員室に返して昇降口に向かう。・・・まだいるのかな。
「おまえ、傘持ってる?」
やっぱりいた・・・。あたしはげんなりした。
「天気予報で雨降るなんて言ってなかったから・・・」
外はどしゃぶりみたい。雨の音がすごい。
「帰っぞ」
「へっ?」
さっきから意表を衝かれっぱなしです。
翼空先輩から借りたこうもり傘をバサッと広げて、日下先輩は満足そうに言った。
「上等。ほら、早くしろよ」
何を?
「うわばきで帰んの?」
それって、一緒に帰ろうってコト?
先輩はすでに靴を履き替えていて、あたしを見ていた。
「は、はい」
急いで靴箱の戸を開けた途端、雪崩が起こった。
「ありゃ〜」
「お見事。オレよか多い」
先輩が拍手をくれる。
「今日はちょっと・・・多いです・・・」
あたしは足元に山を作った手紙たちを掻き集めた。
「それ、全部読むの?」
「読みますよ、励みになりますから」
束になった手紙をトートバッグに収めたのを見てから先輩は「ふーん、エライね」と言った。
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