きになるあのこ 後編(6)



 試合はBチームのサーブで始まり、ローテーションが1周した。Bチームもベストメンバーで来ていて手強い。今、しのぶ先輩の指サインはレフトだ。トスが上がる。2枚ブロックの隙間が見えたから思いっきりボールを叩いた。ボールはストレートにアタックラインに突き刺さった。先輩たちが動けないでいた。

「よーしっ、園生!」

 しのぶ先輩がこぶしを出す。

「紗綾、見方でよかった〜」

 とは、えり先輩。ネットの向こうからともえ先輩が怒鳴ってきた。でも笑ってる。

「こらぁー手抜け、紗綾!そこに落とすか?普通」

「アイ。楽しくてつい」

 頭を掻いたら、みんなの笑いを取ってしまった。

「『つい』でこれだよこの子は」

 ともえ先輩がツッコミを入れて、さらに盛り上がる。

「園生ちゃんはホントにバレー好きなんだね」

 翼空先輩がそう言って微笑んだ。ズキューン!ああ、もうあたしどうなってもいい。

 こんな感じで浮かれながらも、試合が進んで気付いた。日下先輩、上手い。男女のベストメンバーの中にいても全然引けを取ってない。ただの一日部員なのに・・・なんなの、この人?打つフォームも無駄がなくてすごくきれい。そして高いジャンプ。魅せるプレー。

 ――ずるい。

 何もしてないくせに、どうしてなんでもできちゃうの?くやしい。絶対負けたくない。

「おう園生、オレ様の邪魔すんなよ〜」

 日下先輩がニヤニヤして声を掛けてきて、あたしの闘争本能に火が点いた。

「たった今したくなりました」

「ぷっ、園生ちゃんておもしろい」

 二人のちょっとしたやり取りに翼空先輩が入って来たと思ったら、あたしの闘争本能はあっという間に鎮火してしまった。そーだ、バレーはチームワーク。こんなことで乱れてはいけない。翼空先輩に助けられちゃった。すごい人だなぁ。いつも冷静・・・というか穏やか?怒ったこととかないのかな・・・?

 第1セットはAチームが取った。第2セットはメンバーを全員チェンジしたのでみんなベンチだ。

 ふんぞり返っている日下先輩を挟んで翼空先輩がいる。ちょっとドキドキ。何か話さなきゃ。

「翼空先輩、日下先輩っていつもこんなに性格悪くて態度が大きいんですか」

「あん?」

 日下先輩の目が据わる。

「どーかなぁ、千尋?」

 翼空先輩は汗を拭きながら優しく笑って日下先輩をうかがった。

「翼空よぉ、そー優しいと女の尻に敷かれっぞ」

「オレの話じゃないだろっ。園生ちゃん、こいついつもこうだよ」

 やっぱり笑ってる。八つ当たりされてるのに。

「でも女の人には優しいですよねぇ。あたしのこと女だと思ってないんじゃないでしょうか」

「それは園生ちゃんに失礼だぞ」

「うるせーなぁ。園生は園生だろ」

「そうでした。先輩あたしのこと気にくわないって言ってましたもんね」

「おまえそんなこと言ったの?」

「翼空先輩、あたしいじめられてるんです」

「それはいじめてんじゃないよ、園生ちゃん。こいつ、構ってほしくて」

「バッ翼空、何わけわかんねーこと言ってんだよ」

 そんなこんなで、混合の試合はセットカウント2対1でAチームが勝った。今回も楽しい練習試合だった。

 今日は居残り練習は無し。さすがに疲れたぁ。翼空先輩ともお話しできたし。・・・いいんだ、片思いでも。自分が想ってるから相手も想ってくれてるなんてこと、そんなにないもん。それが普通だもん。

 靴を履き替えて外に出る。家帰ったら手紙とチョコで疲れを吹き飛ばそっと。

 バス待ちの人の中に翼空先輩がいた。隣の凪先輩と話をしている。

「翼空先輩、お疲れさまでした。試合面白かったです。勉強になったし。凪先輩、朝はありがとうございました」

「いいわね、園生さんていつも楽しそう」

「そうですか?」

 凪先輩の笑顔につられて笑う。やっぱキレーだぁ。

「海音はオレより園生ちゃんファンだもんね」

 二人がふんわりとほほ笑む。この雰囲気って・・・。



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