「おはよー、一重。いいこと教えてあげる。日下先輩今日バレー部だよ」
校門を入ってすぐに、一重を見つけた。
「はよー。ホント?何で知ってんの・・・まさか」
「昨日監督が男子との練習試合にスペシャルゲストが来るって言ってたからね」
「なーんだ、また一緒に帰ったのかと思っちゃった」
「うん、また一緒に帰るハメになっちゃって」
「ええっ、紗綾あんた永瀬先輩は〜?」
「誤解しないでよ。日下先輩がね、一緒に帰ったら翼空先輩のこと教えてくれるってゆーから仕方なく!」
不可抗力だ。あたしにとっては不本意の一言に尽きるよ。結果的に翼空先輩のことは教えてもらえなかったし・・・でも、もっと大事なことを教わった。
「おはよう、園生さん」
横からあたしを呼ぶ声。凪海音(なぎ あまね)先輩だ。
「おはようございます」
「今日練習試合なんでしょう?応援したいんだけど行けそうにないから・・・はいこれ。頑張って」
凪先輩から小さな青い袋を受け取った。
「はい、頑張ります」
じゃあね、と手のひらを見せるだけの仕草で、凪先輩は長い髪をサラリとなびかせて校舎に入って行った。
「一重ー、キレイだよねぇ、凪先輩」
「うんうん。淑女って凪先輩のことを言うのよ」
二人でうっとりする。あたしが凪先輩みたいにおしとやかで女らしかったら・・・う、それあたしじゃないや。そんな柄じゃないし。でも一つの理想として凪先輩は完成形に近いものがある気がする。憧れの対象だ。
「凪先輩にも応援されて、あたしは幸せ者だよ」
「ホント〜。紗綾はいいよね〜。日下先輩とだって一緒に帰れちゃうし」
「帰りたくて帰ってんじゃないってば。一重、実は怒ってない?」
「一重さんはうらやましいだけでーす」
二人で笑いながら校舎に入った。
放課後。
体馴らしにパス練習をしていると、隣のコートが急に騒がしくなった。
「え・・・スペシャルゲストって」
ともえ先輩が練習を中断する。
「日下くんなの?」
あき先輩が顔をほころばせる。
「・・・本当に来た」
あたしは誰にも聞こえないようにつぶやいた。
「集合」
監督がみんなを集めて頭を掻きながら言った。
「隣がうるさくてかなわんなあ」
日下千尋の追っ掛け隊がコートを物々しい雰囲気に変えている。たかが練習試合にこのギャラリーは・・・。
「監督、ゲストって日下くんなんですか」
「ああ。3年6組日下千尋だ」
「どーしよー!!緊張して体動かなくなっちゃうよ」
女子バレー部一の長身、えり先輩も日下千尋フリークなんだ。
「えりっ、センターしっかりしなよ!」
ともえ先輩が喝を入れる。
「あーも〜だめ〜」
「スタメンいくぞ。ともえ、さや、えり、なつき、あき、ゆうこ」
現在のベストメンバーだ。
「日下は混合に出るから、対抗は手抜きするなよ。遊んでたら即交替だぞ」
とは言っても、試合が始まれば手なんて抜いてらんない。男子は県下の強豪なんだもん。
男子が女子のコートに入ってくる。練習試合は女子のネットの高さでやるから、男子にとってはかなり有利だ。後輩たちが試合の準備に取り掛かる。
「先生、よろしくお願いします」
男子の監督が挨拶に来た。
エンドラインに並んで、ホイッスルで礼をする。スタメンだコートに入って円を作り、気合を入れてそれぞれのポジションにつく。
男子もベストメンバーだ。翼空先輩がライトにいる。・・・ってことは、レフトのあたしの真ん前!?わっ、どうしようっっ!
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