きになるあのこ 後編(3)



 街灯が文字を作って、なんとなくチョコって読める!

「面白くねー?この場所からしか読めねーんだよ」

 自転車を降りた先輩が柵に手を掛けて言う。

「おかしーっ。これ、先輩が見つけたんですか?」

「・・・いや、翼空が」

 翼空先輩が?・・・本当に?

「あはーっ面白い。明日楽しみだなぁ」

 早く翼空先輩に会いたいな。

「あ、明日で思い出した。明日、オレ臨時バレー部員だから」

 えっっ・・・?

「一気に冷めました」

「おまえねぇー」

「もしかしてスペシャルゲストって」

 先輩がニッコリ笑っている。

「・・・先輩って、部活何でしたっけ?」
 
 たしか一重は生物部とか言ってたような・・・でもユーレイ部員だって言ってたような・・・。

「オレ?ほぼ全部だ。所属は生物部だけどな」

「なんですかほぼ全部って」

 訊いたあたしに、先輩は溜息混じりで答えた。

「おまえくらいだぜ、知らないの。オレってばあちこちから引っ張りダコなんだよね。ほぼ全部の部活、日替わりでやってんだ」

 へえ。そういえばたまに男子バレー部のほうが騒がしいことがあったっけ。

「部活まで浮気症なんですねー」

「そうなんだよねー・・・ってオイ」

 またやってしまった。悪気はないんだけど・・・なんでかなぁ、日下先輩と喋ってると凶暴になってしまう。

「おまえ、オレのことナメてるだろ・・・」

「めっっ滅相もない!あたしは自分のことでいっぱいいっぱいで、先輩が何をしているのかなんて全然興味ないだけですから」

「てめー、フォローになってねぇぞ。千尋ショック」

 うずくまる先輩。

「すみません、言い過ぎました。あたし何でこう口が悪いんでしょう。自分でもびっくりしちゃいます。今までこんなことなかったと思うんですけど・・・」

 実際になかったんだよ。日下先輩と初めて話した昨日から、自分の制御がきかなくなってるみたい。・・・きっと先輩が挑発的だからだ。

 先輩はうつむいたままだ。

「先輩・・・?」

「・・・」

 あたしは先輩の隣にしゃがんだ。謝ろうと思って。

「・・・ご」

「おまえ!」

 驚いた。あたしの言葉を遮るように、先輩がうつむいたまま怒鳴ったから。

「けっこー素直なのな」

 どっかで聞いた・・・。先輩昨日・・・けっこー負けず嫌いなのなって、言ったよね・・・。

 1個1個あたしを発見してくれてるみたい。って何だそれっ、考えるだけで恥ずかしいっ。

「そー・・・ですかね」

 先輩はうつむいたまま言った。

「素直で負けず嫌いなやつ、好きだぜ、翼空は」

 後から取って付けた風に翼空先輩の名前を言ったように聞こえた。

「あたし本当に、翼空先輩のことバレー部でしか知らないんですよね・・・」

 よく知らない人にも、人は恋をする。あたしもその中の一人だ。もっと知りたい気持ちと自分を知ってほしい気持ちがどんどん膨らんで、翼空先輩ばかりを目で追ってしまう。まるで太陽の下のひまわり。

 どうにかしたいのに、どうすればいいか分からない。ただ目で追うだけなの・・・?きっとそうじゃないよね。話せるよ。分かってもらえるよ。

「好きなヤツのことはな、自分で確かめるのが正しい恋愛の第一歩だぜ。百聞は一見にしかずってゆーしな。オレが翼空のことを話せば、オレが見た翼空しか伝わんねーだろ」

 日下先輩が立ち上がって髪を掻き揚げながら言う。

 言わんとすることが分かった。

 あんまり人を当てにするなっていうこと・・・。

「先輩って、教師向いてますよ。・・・恋愛教室とか」

「教師ィ?冗談。・・・でも恋愛教室は魅力あるな」

「またよからぬことを考えてるんですか?」

 あたしが笑うと、先輩も「おまえねぇ」と笑った。

「あたし明日、翼空先輩とお話ししてみます」

 ・・・分かった気がする。

 先輩って、居心地がいいんだ。だから凶暴になったり遠慮がなくなったりしちゃうんだ。本音に近い気持ちで向き合えてる。ありのままのあたしで笑ってる。

「そうしてみな。オレは邪魔しねーけど、バレー部には行くかんな」

「バレー部員になるからには容赦しませんよ」

「おまえこそオレの上手さを見て泣くなよ」



 この後、あたしは結局日下先輩の自転車に乗せられて家に帰った。





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