FELLOWS!

第二話: Unsung Hero(5)




 ジェイはアーティアを本当にしっかりした子だなあと思った。ショッキングな出来事のはずなのに動揺するどころか悲観的にもなっていない。おそろしく前向きで・・・そうだ。さっきだって感情を持たないように見えたベネディクトをなつかせてしまったではないか。そう考えながら、ジェイは語り始めた。

「・・・ドーティス・フォルツェは裏世界では結構有名な錬金術師なんだ。同時に医者でもあり学者でもある。俺が兄貴同然に慕っている人で、ミハイルに紹介したら彼女、ドーティスに惚れちゃったんだな。おまえを創りだしたという点では親に当たる。そして俺の『フォルツェ』の名は彼に由来する。

 ティルジット・サーイルンは・・・自称ドーティスのライバルだ。ドーティスに憧れて錬金術の世界に入り込んだらしいが・・・あの通り執着心の強烈な奴でな。ドーティスのやる事成す事みな真似する困った奴だ」

「ふーん。それで、ユン兄ちゃんは何でジェイになったことをオレに黙ってたの」

 カタリナがキッチンから戻ってきて、用意した紅茶をカップに注いだ。

「それは・・・」

 ジェイは再び俯いた。

「・・・坊ちゃんを悲しませないためですよ」

 お茶請けのクッキーをテーブルに置いて、カタリナが口を挟んだ。ジェイがカタリナを見遣る。

「あの時、坊ちゃんは七歳でした・・・」

「カタリナ、俺が言う」

 ジェイがカタリナを制した。

「俺が剣精で不老不死っていうこの体になった本当の理由は・・・当時七歳だったおまえの遺伝子に異常が見つかって、十三年後に成長が止まると知ったからだ」

「それ!さっきも言ってたけど、成長が止まるって!!オレ、死ぬってこと!?」

 アーティアが立ち上がる。

「俺もはじめそう思った。でも違うんだ。成長が止まるってのは、永遠に生きるってことなんだ・・・。二十歳の姿のまま」

「!!?オレが・・・?」

「ああ。おまえ、今までかすり傷とかもすぐに治ってたりしたよな。髪もやけに伸びんの早いし。それって、遺伝子異常からきてたんだ」

 ジェイはカップに入った紅茶を覗き込んだ。アーティアはうろたえていた。

「え・・・ちょっと待ってよ。じゃあっ・・・オレの成長が二十歳で止まるって知ってからユン兄ちゃんが剣精になったってことじゃんっ。なんでだよ!?なんでユン兄ちゃんまで不老不死にならなきゃなんなかったんだよ」

 アーティアがジェイに歩み寄る。

「おまえを独りにしたくなかったからだ」

 ジェイはアーティアの目を見てきっぱりと言い切った。

「おまえが二十歳になるまで待っていたら俺はどんどん年老いてしまう。そうなると錬金術による劇的変化に体が耐えられなくなるんだ。だから早いうちに・・・おまえの異常が見つかったときに・・・ドーティスの提案で俺は剣精になった。

 まだ小さかったおまえに、おまえが創られた生命だということや遺伝子異常なんて教えられるわけがない。俺は、おまえが年老いない俺が傍にいても変と思わないで、剣舞で身を守れるようになるまでおまえから離れたんだ。それに、いきなりこの姿で会って『覚えてるか、ユン兄ちゃんだよ』なんて言ったっておまえは信じっこねーだろ。・・・おまえが自分の生い立ちについて知っても周囲や自分を傷つけずに理解して耐えられるくらい大人になったら・・・話すつもりだったんだ」

 カタリナがアーティアを座るように促した。

「ユングフラウ様は、いずれ独りで生きることになる坊ちゃんが淋しくないようにと・・・」

「オレのために・・・」

 ジェイは無表情でそっぽを向いていた。

「親バカならぬ、叔父バカなんだね」

 アーティアがそう言ってぷぷっと笑うと、ジェイは「ほっとけよ」と言って照れ隠しに頭を掻いた。

「オレ、ユン兄ちゃんのこと大好きだったよ。・・・今でもやっぱり大好きだよ」

 アーティアは微笑んだ。




 翌日、朝食後にジェイとアーティアはリビングにいた。

「ユン兄ちゃん・・・ひとつ正直に答えてほしいんだけど」

 アーティアがかしこまって切り出した。

「ん、なんだ?」

「・・・ホントは母さんの居場所、知ってるんでしょ・・・!?」

 その質問にジェイは一瞬動きを止めて、これでもかという爽やかな笑顔を作った。

「うん♪」

「うん♪っじゃねーよ!じゃあ母さんを捜し回ったこの五年間は一体何だったわけ!?」

 アーティアは立ち上がって憤慨した。

「社会勉強だよー。社会勉強ぉ。人生これ勉強の連続なりってな。いろんなとこに行けて楽しかっただろ?それからこんな体の俺にも五年で馴染んでくれたし」

 ジェイが足を組み、ナハハ〜と笑う。

「・・・まあ、楽しかったことは認めるよ。おかげさまで神経もずいぶん太くなっちゃったけどね」

 アーティアは腰を下ろした。

「まったくだな」

 ジェイはまだ笑っている。

「・・・なにニヤニヤしてんだよ」

 アーティアはジェイが笑ってい理由が分からず拗ねた。

「してねーよ?」

「してるっ」

「どーでもいーけどアーティア、も一個、俺に訊くことがあるだろ」

「・・・?あ。母さんの居場所、どこ・・・?」

 ジェイが立ち上がってキッチンに向かって言った。

「カタリナー!行ってくるぜー」

「ってどこにだよ」

 アーティアが突っ込んでいると、キッチンからカタリナが手を拭きながら現れた。

「はーい。ミハイル様とドーティス様によろしくお伝えくださいましね」

「ああ。じゃ、行こっか。シララに」

 ジェイがコートを羽織り、振り返ってアーティアを見下ろした。

「シララ?」

「東海の小さな島だよ」

「島―!?水着持ってかなきゃっ」

「おーおー。早く仕度せいよ」

 カタリナさーん水着どこ行ったっけー?と言いながらキッチンに向かうアーティアの後姿に、ジェイは優しい視線を送り「ガキ」と愛情を込めて呟いた。




 バレム港でレンタルした高速艇でシララを目指す二人。

「ユン兄ちゃん、なんで名前まで変えちゃったのさ?」

 高速艇を操舵しながらジェイは言った。

「あー?変えなきゃヤバイだろー?俺がユングフラウ・ワーニットなんて言ったら。外見全く別人だし歳はとらねーし。ユングで通すにゃちょいと名前が知れすぎてんだよ、俺は」

「え?なんでなんで」

 アーティアは不思議がってジェイの隣に来た。

「って、そっか。アーティアは俺の前職知らねーんだっけ」

 ジェイは照れたように頭を掻いた。

「?」

「・・・」

「あ、またナイショとか言う気ダロ!?」

「言わねーよ。・・・笑うなよ」

 ジェイはもったいぶって口を開いた。

「・・・モデルやってたんだよ」

 アーティアは口を開けたまま固まってしまった。

 東海の海の真ん中で、小さな高速艇から「マジでぇー!?」という少年の声が拡散した。

「写真とかねえの?」

 アーティアが瞳を輝かせてジェイを見る。

「見せられっかよ、ハズカシー」

「今度見せてよね!すげ〜見てえ〜。だよなー、あのかっこよさだもんなー」

「やだね。ぜってーやだ」

「なんだよドケチっ!」

「ああ。俺はドケチなジェイだよ」

 チェ、と舌打ちしながらアーティアは、ミハイルにこっそり見せてもらおうと思いついた。

「ねえ、これからユン兄ちゃんのこと何て呼べばいい?」

 素朴なアーティアの質問に、ジェイは一瞬だけアーティアに視線を遣り、水平線を見据えて言った。

「ジェイでいいぜ」

 アーティアはさらりと言ったジェイを無性に抱き締めてやりたいと思った。だが行動に移せるわけもなく、両手を天にかざして、自分にはまだ理解不能なその衝動を声に変えて、太陽に向かって吐き出した。

「ジェイのドケチーーっっ」

「なんだよ文句あっかよ!?」

 その衝動がジェイに伝わった様子はなく、アーティアは両手を天にかざしたままホッと胸を撫で下ろして、眩しい太陽の光を体中に浴びた。

「おいおい、あぶねーから座っとけ!」

 東海の青い海原を一艘の舟が真っ白いラインを引きながら進んでいく。







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第二話: Unsung Hero (終わり)



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スイートチャージ直後の小生意気アーティア。