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「傷、平気?」
アーティアがジェイの縄を解く。
「ああ。心配ない」
「このおっさんが言ってた話、本当なんだね」
ジェイはうつむいた。
「・・・ああ」
「・・・ジェイ・・・、ソードリアル!」
閃光!
「おっさん。かわいーじゃん、ベネディクト。ちゃんと応えてくれるぜ。心だってちゃんと持ってる。おっさんが認めてないだけだ」
アーティアは剣先をティルジットに向けて言った。
「五月蠅い。君に何がわかるというんだ」
「分かるぜ。ベネディクトは怯えてる。オレがあんたに剣を向けてるからだ。おっさん、一度でもベネディクトの手を握ったことあるか?一度でも目を見て話しかけたことがあるのかよ」
ティルジットはベネディクトを見下ろした。ベネディクトは無表情でティルジットを見上げていた。
「泣くことも笑うこともないだって・・・?ふざけんな。親のあんたが教えなきゃ他に誰が教えるんだよ。そんで完璧な人間を創るだって!?笑わせんな」
アーティアは剣を下ろした。
「・・・母さんはな、忙しい仕事の合間を縫ってオレに下手くそな料理を作ってくれた。カタリナさんはオレに家事を教えてくれた。覚えた料理を作ったとき、母さんはすごく喜んでくれた。ユン兄ちゃんはいつもオレの目を真っ直ぐ見て話してくれてた。みんな、オレが悪いことをしたら怒ってくれたし何かを上手くできたときは褒めてくれた。ジェイはオレにいろんなことを教えてくれた・・・。ヒューマンリアル」
閃光の中から現れたジェイは優しくアーティアの肩を抱いた。
「オレは生い立ちがどーだろうと、自分が愛されてないなんて思ったことはない!愛情に応える方法なんて考えたことなかったけど、自然に身についてたと思う。・・・だからベネディクトにも分かるはずだよ、親の愛情ってやつが。だって、ベネディクトにはおっさんしかいないから」
ティルジットがアーティアから目を離して見下ろしたベネディクトにはやはり表情がなかったが、ティルジットの目をじっと窺っているようだった。
「ティルジット。ガキに説教されてるようじゃ、まだまだだなぁ。そんなんじゃ俺の事はおろか、アーティアの事だって調べたところで何の足しにもならないだろうぜ。ほらほら、用が済んだらさっさとお帰りくださいませぇ〜」
ジェイが追い払うように手をひらひらさせた。
アーティアの説得力ある垂訓にすっかり意気消沈したティルジットは、ベネディクトとヤツらを連れて「いつか必ず君たちを分解して隅から隅まで調べ尽くしてあげますからね」と捨て台詞を残して去って行った。
「俺たちを狙ってたヤツらはやっぱりティルジットの仕業だったか・・・しかしまぁ、できそこないとはいえ、懲りずによく創ったもんだぜ」
静かになったワーニット邸のエントランスで、ジェイがぽそりと呟いた。肩を抱かれたままのアーティアはなぜか小刻みに震えていた。
「アーティア?」
ジェイが覗き込むと、アーティアは瞳の炎を燃やしてジェイを睨み付けてきた。
「よくも今までオレを騙してくれたね、ユン兄ちゃんっ」
怒っているアーティアにジェイは一瞬困惑した表情を見せたが、次の瞬間には優しく笑ってアーティアを抱き締めていた。
「えっ、ちょっと・・・」
どぎまぎしているアーティアを、ジェイは更にきつく抱き締める。
「くるしいよ・・・」
「アーティアが・・・俺を呼んでくれた・・・。やっと抱き締められた」
耳元で囁かれ、アーティアはユングフラウが今まで溜めていた、言いたくても言えなかったという思いを感じ取った。
「可笑しいね。こんなに近くにいたのに。子供の頃は手繋いだりおんぶしてもらったり抱き締めてくれたり・・・それが普通だった。でもオレが忘れてたばっかりに・・・。なんか久しぶりだね、ユン兄ちゃんに抱き締めてもらうのって」
アーティアもジェイの背中に手を回した。
カタリナをソファに横にして、アーティアと、顔の血を拭き取ったジェイは空いているソファに座った。
「綺麗な金色の瞳だったのにね」
「ぷっ、おまえミハイルと同じこと言ってる。それに何だか昨日まで会ってたような言い方だな」
「!!?」
途端になぜか真っ赤になったアーティアが「母さんと!?」と自分の頬をぺちぺち叩きながら言った。
「何照れてんだよ。その辺やっぱ親子だよなあ。・・・青い目だって悪くねーだろ?」
ジェイが言うと、アーティアは頷いて「うん、かっこいいよ」と言った。
「ってことは!!母さんより四歳年下ってことで・・・三十八歳!?マジかよ」
「実年齢はな。俺がこの体になったのは二十五のときなんだ」
アーティアがジェイの顔を覗き込む。
「何で・・・教えてくんなかったの」
ジェイは目を逸らした。
「・・・まァ、いろいろと事情があってな」
「なんだよそれ。ここまでバレてんだぞ。オラ吐いちまえ〜」
アーティアがジェイを揺さ振る。二人がじゃれ合っていると、カタリナが目を覚ました。
「・・・あら・・・坊ちゃん!いつお戻りに?あらやだ、アタシったらいつ寝てしまったのかしら」
カタリナはあたふたと起き上がり、キッチンに向かおうとして足を止めた。
「・・・あら・・・?」
そう言って振り返り、ジェイに視線を向ける。
「よっ、カタリナ。大丈夫なのか?」
「!!なぜっっ、なぜあなた様がここに?」
カタリナはユングフラウがジェイになったことを知っている一人だ。姿が変わって以来、アーティアに見つからないようにこっそりとしか会っていなかったジェイが、堂々と家の中に居り、しかも気軽に自分の名前を呼んだのだ。それに、久し振りに会うのに「大丈夫なのか」とはいったいどういうアイサツだろうとカタリナは思った。
「うん。バレた」
「バレたって・・・ああ、坊ちゃんはもう二十歳ですものね」
「カタリナさん、大丈夫なの?」
アーティアまで変なことを訊く。
「アタシは元気ですよ。そういえば今変な夢を見ましたわ。怪しげな人と子供とたくさんの怪物が来てアタシ、気絶してしまいましたわ。あははっ」
ジェイはアーティアと顔を見合わせた。それからカタリナを見て言った。
「それ夢じゃねーよ。ティルジットが来たんだよ」
アーティアが頷く。
カタリナは目を丸くした。
「あの変態錬金術師、ティルジットが?なぜ」
「俺たちを捕まえて研究したいんだってさ。あいつがベラベラしゃべるから、俺の正体アーティアにバレちゃったの」
「では坊ちゃんの生い立ちも成長が二十歳で止まることも?」
その言葉に二人はカタリナを見た。
「成長が止まることはティルジットは知らないはずだぞ!?」
とジェイ。それに重なるようにアーティアも叫ぶ。
「何それっっ成長が止まるってどういうことだよ!?」
そして目を見合わせる二人。
カタリナは「あら、アタシったら・・・」と言って手で口を塞いだ。
「ジェイ!?こうなったら洗いざらい話してもらいますからねっっ!?」
アーティアは怒り心頭に発してプンプンしている。
ジェイはがっくりと頭を垂れた。
「もう『ナイショ』も『いろいろな事情』も聞き入れませんよ」
ジェイは俯きながらいじけたように「わかったよォ」と呟いて、ポケットから取り出したユッパチャプスをアーティアに渡した。
カタリナはジェイから注がれる痛い視線を感じながら「今紅茶淹れますからねー」と言ってそそくさとキッチンへ消えていった。
「カタリナのバカバカ」
ジェイの愚痴をよそに、アーティアはユッパチャプスにご満悦だ。スイートチャージが終わったアーティアがおもむろに口を開いた。
「・・・で、ジェイ?母さんの遺伝子からドーティスって人の実験でオレが生まれました。ある日ユン兄ちゃんはドーティスって人の実験で不老不死になりました。さっきティルジットって人がユン兄ちゃんとオレを捕まえに来ました。それからオレは二十歳で成長が止まると今カタリナさんに聞きました。
まず。ドーティスって誰でティルジットって何者?」
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