FELLOWS!

第三話: Charming artifact(1)




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 森に囲まれた一軒家の応接室で、アーティアとジェイは二人して、つっ立ったまま凍ったように固まっていた。

 二人とも、その優美な容貌を奇妙奇天烈にゆがめている。

「・・・ちょ、ちょっと待ってよ、」

 アーティアが、どうにかこうにか声を絞り出す。その声色は動揺に震えていた。

「・・・・・」

 ジェイはというと、目を大きく見開いて口をあんぐりと開けたまま、先ほどからその一点を凝視し続けていた。 

 まるで信じられないことが、二人の目の前で起こっていた。

「ミ、ミハイル・・・」

 ジェイは、弱々しくもなんとか声を出して、狐か狸に化かされたようなこの状況を見極めようとする。

「どうしたの、ふたりとも立ったままで。どうぞお座りなさいな」

 ミハイル・ワーニット。・・・アーティアの母その人は、ほほ笑みも仕草も優雅に、ソファにゆったりと腰を下ろした。

 彼女の細い腕は、黒髪のこびとを優しく抱えていた──・・・。




  ■■■


 アーティアは、高速艇の座席を倒して横になり、大きく伸びをした。

「すげー、贅沢ぅ〜」

 ジェイの操舵する高速艇で半時。周りは見渡す限り真っ青な海。燦々と降り注ぐ太陽が、じりじりと二人の白い肌を焼いていた。

 広い地球のど真ん中。アーティアは、この空間が自分だけのものみたいで、ものすごく気分が良かった。

 天から水平線まで、雲ひとつない薄い水色の空。ぐるりと見渡すと、緑頭で長身な男の後ろ姿が目に入る。

 ユン兄ちゃん・・・いや、ジェイ。

 彼がそばにいることも、気分がいい理由のひとつだった。

 母さんが失踪してからずっと一緒にいてくれたジェイ。彼が、母さんの弟、叔父のユングフラウだったなんて、どうしてずっと気づかなかったんだろう。どうしてずっと、気づけなかったんだろう。

 ユン兄ちゃん・・・

 アーティアは、心の中で懐かしい名前を呼んだ。

 ふいにジェイが振り返る。

「!」

 アーティアは驚いて体を起こしてしまった。

 光に透ける薄茶髪を風で乱したユングフラウが、振り返って、笑ったように見えた。

「もうじき着くぞ。見えてきた」

 ジェイは前方を指差す。

「え!」

 アーティアは飛び起きてジェイの隣に並んだ。



 東海に浮かぶ孤島シララは外周が三キロメートルほどで、透明な青海と白い砂浜と、椰子の林に囲まれた美しい島だった。

 波止場に着岸するなり、アーティアは一言、感心してこう言った。 

「すげー、贅沢ぅ〜!」

「さっきもそれ言ってたな」

 すかさずジェイがつっこむと、アーティアは「それはそれ、これはこれ」と言いながら船を下り、シララの地を両足で踏みしめた。

「さっきは世界一人占めしてる気分だったんだよ」

 正確には、世界とジェイを。

「今度は?」

「だってこの島丸々ドーティスのものなんだろ。・・・母さんも、ここにいるんだろ」

 あらためて口にして、アーティアはそこから動けなくなった。

 ここに着くまで、ジェイからシララがドーティスの私有地だと聞いてはいたが、アーティアはここまで大きな島だとは思っていなかった。

 人里を離れて暮らす錬金術師、ドクター・ドーティス。オレをつくり出し、ユン兄ちゃんを剣精にした人。
 どんな人なんだろう。母さんが惚れこむくらいの人・・・。

 いや、それはいい。今考えたって、ドーティスがどんな人間か知らないのだからどうにもならない。

 それより母さんだ。

 この島には、五年も会ってない(もちろん声も聞いてない)母さんがいる。どんな顔して会えばいいんだろう。会ったらなんて声かけよう。

 ・・・以前、母さんとオレとカタリナさんと三人で生活していたときはオレ、どんな話し方してたっけ。母さんはどんな話し方だったっけ。

 忘れるはずない。忘れるはずないのに・・・思い出せない。

 離れてた五年てそんなに長い時間だったかな。母さんはオレのことをちゃんと覚えててくれてるかな・・・。

 オレにはジェイがいてくれたから寂しくはなかったけど、母さんは寂しくなかったかな。あ、そか。ドーティスと一緒なんだもんな、大丈夫か。

 微動だにしないアーティアをの顔をのぞきこんで、ジェイは、ふと口の端をつり上げた。

「緊張してんのか。らしくねえな」

「・・・そ、そんなんじゃねーよ」

 強がっているのが見え見えのアーティアを、ジェイは手招きした。

「来いよ、髪、ほつれてる。」

「う、うん」

 ジェイに髪を触られていると、だんだん落ち着いていくのが自分でもわかるアーティアだった。

 なんだか、あたたかい気がした。いつものジェイなのに、そこに確かにユングフラウを感じている。

「よし、いいぞ」

「ありがと」

 アーティアは、うつむいたまま言った。なぜか照れてしまう。

 ああ、オレやっぱり好きだ、この人。

 子供のころ以上に意識してしまっているのはどうしてだろう。

「酔った? ・・・わけでもなさそうだな」

 アーティアは、ゆっくりとジェイを見上げる。

「平気だし」

 少し拗ねた表情のアーティアに、ジェイは、子供をなだめるようにほほ笑みかけた。

「なら行こうか」

「うん」

 ジェイはユングフラウだけど、やっぱりジェイだ。

 変わらない笑顔に、アーティアは心底安心できた。




 林の小路を島の中心に向かって歩いていくと、林が開けた先に、鉄筋コンクリート製の建物と、それに不釣合いにくっついたログハウスが見えてきた。

「あれがドーティスの家と研究所だ」

「・・・違和感アリアリのところだね」

 ・・・母さん。

 不安げに見つめるアーティアの内心を察知したのか、ジェイはアーティアの肩をそっと抱いてやった。

 言葉はなくても、アーティアには、ジェイが「大丈夫だよ」と言ってくれているのがわかった。




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第三話: Charming artifact

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