FELLOWS!

第三話: Charming artifact(3)




「それにしても、聞いていたとおり、アーティアは本当にしっかりしてるんだね」

 ドーティスがアーティアにほほ笑むと、アーティアは少し照れくさそうにうつむく。

「そんなことないよ・・・」

 ほほを染めているアーティアを見兼ねて、ジェイが嘲笑混じりに言った。

「なに照れてんだよ。俺のしつけがいいから、だろ?」

 いつものジェイの、人を小馬鹿にした目で見られて、アーティアもノッてくる。

「あー、いえてるー。ジェイのおかげでずいぶん我慢強くなったし、ずいぶん打たれ強くなったもんな、オレ」

 そんな仲良し(なのか?)の二人のやり取りをみて、ミハイルもドーティスも将来に希望を持てたことは言うまでもない。



 と、突然。


 ドォォォン!!!


 和やかな雰囲気を打ち破る爆音とともに、ログハウスの入り口が内側に倒れてきた。

 外部から何らかの力で破壊されたようだ。

「なに!?」

 五人が一斉に振り返る。

 光にぼやけた影に向かい、ジェイが叫んだ。

「ティルジット!!」

 それを聞いて、アーティアが身構える。

「姉貴、兄貴、下がって!」

 ミハイルはイリアスを抱え、ドーティスはミハイルを守るように包んだ。

 その二人をかばうように、アーティアとジェイが前に出る。

「願ったこのときが、ついに訪れたようです・・・!」

 引いていく光埃の中から現れたのは、狂気をまとう変態錬金術師、ティルジット・サーイルンとベネディクト、それから二体のヤツらだった。

「つけられてたのか・・・。迂闊だった」

 ジェイが舌打ちする。

「ふははははははは! はははははは!」

 驚いて声も出せずにいたイリアスが、ティルジットの狂気に満ちた高笑いで泣き出してしまった。

「イリアス、大丈夫よ、よしよし・・・」

 張り詰めた空気の中で、ミハイルの声が穏やかに響く。

「アーティア!」

「うん」

 ジェイが伸ばした手をアーティアが取ろうとしたそのとき。

 いきなりティルジットが床に這いつくばるように土下座の格好になった。

「お待たせしました!」

「!???!?」

 理解不能なティルジットの行動に、アーティアとジェイが手を取り合ったまま顔を見合わせる。

「私が不甲斐ないばかりに五年も掛かってしまいました! ですがこれで約束は果たしました! 私を弟子にしてくださいますね、ドーティス」

 それを聞いた二人が、「え?」とドーティスを返り見る。

 ティルジットは床にひれ伏したままだ。

「あ〜・・・」

 ドーティスが返事に困っていると、ティルジットの後方にいたベネディクトも前へ出て、たどたどしくも一緒に土下座をするのだった。

「えぇと・・・」

 ドーティスは、手をつないだままの二人に睨みつけられて、言葉に詰まっていた。

 二人はさらに無言の圧力をかける。

 その沈黙は、泣いていたイリアスをも黙らせてしまった。

「ま、まぁ、まず、座・・・らないか。お茶を入れよう」




  □□□


「へぇ・・・そういうこと。」

 ジェイがイラ立った様子で、投げやりに長い足を組む。

「黙っていたことは謝るよ。本当にすまなかった。イリアスのことで手がいっぱいでね・・・」

「ちょうどイリアスが生まれたときだったのよ。ティルジットがこの島に来てね、どうしてもドーティスの弟子になりたいって・・・」

「はい。私がスッポンのように喰らいついていたら、ドーティスが条件を提示してくれたのです」

「・・・オレとジェイの秘密を、オレにショックを与えないようにバラす・・・って? 十分ショックだったけど」

「・・・・・」

 ジェイは無言だった。今度こそ本当に裏切られた気分だった。

 ドーティスもミハイルも、アーティアと俺の秘密については、すべて俺に託してくれたのではなかったか。なぜ俺に知らせずに部外者のティルジットに。
 ・・・おおかた、ティルジットのしつこさに我慢ならず仕方なく、といったところか。

 それにしたって、黙っているなんて酷いじゃないか、とジェイは不愉快感をあらわにした。

「ジェイ・・・」

 アーティアが、きつく握られたジェイの手に触れる。

 ティルジットは、ジェイの様子に気を留めることなくドーティスに歩み寄った。

「ドーティス? 私を弟子にしてくださいますね」

 その遠慮の無さには、さすがのアーティアも眉をひそめた。

「ちょっと待ってよ、おっさん。こっちは取り込み中なの。大人なんだから順番くらい守ってよね」

 またしてもアーティアに説教されるティルジットであった。

「あたしがしっかりしていれば、内緒にするみたいにならずに済んだのだけれど・・・。ごめんね、ジェイ、アーティア」

 ミハイルの言葉を聞いてそっぽを向くジェイ。

 ジェイの整った顔は、こういうとき、見る者に戦慄をもたらす。安易に触れられない諸刃ように美しすぎるのだ。

 それとは逆にアーティアは、母に対して心持ち困ったように、やんわりとほほ笑んだ。

「・・・オレもジェイも、母さんに『しっかり』は期待してないよ・・・。わかってるから。ジェイもそんなに怒んなよ。問題と解決がごっちゃり来てイラ立つのもわかるけれど、もういいでしょう?
 私だって怒ってませんよ。怒るより、どこかホッとしてます」

 急に言葉が丁寧になりうつむいたアーティアに、ジェイがゆっくりと顔を向けた。ジェイの表情はまだ苛立ちを残しつつも、わずかに驚きを含んでいた。

「母さんが元気でいてくれてよかったです。イリアスがかわいくてよかったです。ティルジットさんがベネディクトをかわいく思ってくれているみたいでよかったです。ドーティスが私を創ってくれてよかったです。ユングフラウ叔父さんがジェイで・・・本当によかったです。なにもかも、それに尽きるんですよ・・・」

 それは、すべてを『ゆるす』、アーティアが持っている愛なのかもしれなかった。

 繰り返し重なってしまった、裏切りともとれる行為を、その理由を気遣えるアーティアの存在が、裏切った者、裏切られた者、そして加担した者をも爽やかにしていた。

「アーティア・・・」

 ジェイはその名を呼び、口元に優しさを取り戻して、手にこめていた力を抜いた。そして、触れていたアーティアの手を握り返した。

「アーティア、あなたって子は・・・」

 ミハイルが大きな瞳に涙を浮かべている。ドーティスもその瞳を潤ませていた。

「ずっと、黙っていてすまなかったね。辛い思いをさせてしまった」

 ドーティスが言うと、アーティアは首を振ってほほ笑んだ。

「いいえ。私は平気です。それよりジェイのほうがずっと辛かったはずです。すべてを隠して、私の近くにいてくれたのですから」

 その言葉を聞いてジェイは、頭を掻いて困ったように笑い、ポケットからユッパチャプスを取り出した。

「・・・ホレ」

「ありがとうございます!」

「はは。いい加減、おまえの丁寧口調キモイわ」

 ジェイは、幸せそうに飴をなめているアーティアの頭をポンポンと叩いた。

「キモイはねーよな、ジェイ。オレは本気でそう思ってるんだからな」

 アーティアの禁断症状は、少しでもスイートチャージできれば回復するらしい。

「はいはい、ありがとな」

 その光景を見て、ミハイルもドーティスも顔を見合わせてほほ笑み、ミハイルはイリアスを抱きしめた腕に力をこめ、幼い額にキスをした。





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第三話: Charming artifact

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