第三話: Charming artifact(4)
「ティルジットさぁ、おまえアーティアに助けられたな」 ジェイが話を振る。 「ええ、そのよう・・・ですね」 「まだ俺たちのこと研究材料にするつもり?」 「ええ。諦めてませんよ」 「無理だって。おまえじゃアーティアに敵わねーもん」 ははは、とジェイが嗤う。 「・・・でないとまた失敗作が増えることになりますが」 「かまうもんか。ヤツらは俺たちが壊してやるから」 「だから君たちを放っておけ、と」 「そゆこと。」 「・・・とりあえず、最初の仕事はきみが壊したドアを直すこと、だね」 それは、ドーティスがティルジットの弟子入りを認めた、ということだった。 「あああ、あ、感謝します! ドーティス!」 まあこれでいいだろう。とドーティスは言い、感謝すべきはアーティアだね。とほほ笑んだ。 はい、と再び床にひれ伏したティルジットに、ベネディクトも倣った。 「ところでおっさん、気になってたんだけど、この子ベネディクト・・・だっけ。何歳なの?」 先日ベネディクトに会って以来、アーティアは疑問に思っていた。身長の割りに行動が幼いように感じたのだ。 言葉を発したのを見たことがないとはいえ、完璧を目指しているというティルジットの育て方になにか問題でもあるのだろうか。 見た目十歳前くらいのおかっぱ頭の少年は、無表情でティルジットを伺っている。 「生まれて四年が経ちますが。なぜか体ばかり大きくなって、近頃は体つきまでどこか女の子らしくなってきたというか・・・。 おや、みなさん、どうされました?」 ティルジットが、ぽかんと口を開けている四人を見渡した。 「え、これ四歳・・・? てか、女の子!?」 アーティアが、ユッパチャプスを吹き出しそうな勢いで叫ぶ。 誰もが少年を男の子だと思っていたのだ。 「ええ。四歳の女の子です。弟子入りを志願した後、私の実験で生まれました」 ティルジットがベネディクトを見下ろす。ベネディクトは無表情ながら、親でもあるティルジットを伺うように見上げていた。 「うちのイリアスと同い年とはとても思えないわ」 ミハイルの腕の中には、正真正銘四歳のイリアスが収まっていた。確かに、体格差がありすぎる。 「女の子ならもっとかわいい格好させてやれよ」 元モデルの言うことは、やはりちがう・・・。ジェイは、聖歌隊のような白いローブを頭から被っただけの格好にケチをつけた。 「もしかしたら遺伝子異常かもしれない。さっそく検査だ。こっちへおいで」 ドーティスはこの子供が四歳だと聞いて、研究者魂をくすぐられたらしい。ティルジットとベネディクトを引き連れて、研究施設のある奥間に行ってしまった。 「あーあ、慌しいんだから兄貴は」 ははは、とジェイが笑う。 「もう、ドーティスったらイリアスに手が掛からなくなってきたから。目が輝いちゃって」 くすくす、とミハイルが笑う。 「なんか、いっっっきに疲れた」 アーティアが、かじって完食してしまったユッパチャプスの柄を噛みながら上下左右に動かした。 「アーティア、戸棚にクッキーが入ってるわ。お食べなさい。少しイリアスにも分けてあげてね」 「はぁい」 「なあ、こいつらどうすんだ・・・?」 ジェイが、壊れた入り口付近に仁王立ちになっているヤツらを示す。 「ほっとけばー? いつもと違っておとなしいみたいだし。イリアス、ほぅら、お食べ」 アーティアがクッキーをイリアスの手に取らせながら言った。 「アーちゃ、ありがと」 「うんわ、かわい〜〜! アーちゃ、だってぇ〜」 兄になったよろこびを体全体で表している。 「母さん、イリアスと遊んでもいい?」 「いいわよ。」 アーティアはイリアスの手を取って、床に広げられた落書きマットに向かった。 「・・・小さかった頃のアーティア、思い出すな」 二人を見ながら、ジェイがぽつりとつぶやいた。 「そうね。・・・本当に、ごめんなさいね、ユング。今まであなたに言わなかったこと、悪かったと思ってるわ」 「もういいよ姉貴。アーティアが全部清算してくれた」 「うん・・・。あなたにアーティアを任せてよかったと思ってる。これからもずっと、よろしく頼むわね」 「任せといてよ。俺の愛は変わってないぜ」 「ありがとう、ユング」 一度離れそうになった姉弟の心に、和やかな空気が戻ってきた。 「・・・・・」 「どうしたの、おっさん」 奥間への通路の入り口から、ティルジットががっくりと肩を落として現れた。それに気付いたアーティアが声をかける。 「・・・研究室に入れたのはベネディクトだけでした。いち錬金術師として私も入れてくれるものとばかり思っていたのに・・・ ・・・私はまず扉を直せと、ドーティスが・・・」 研究室に入れなかったことで、かなり気落ちしているようだ。 「あら、あの施設はあたしもむやみに入れないのよ。 うふふ、ドーティスは義を重んじる人だからね。あなたがしてしまったことの処理は自分でしなければならないわ。 弟子になったのなら、それをわきまえなくてはだめね」 「それでは、ドーティスが私を認めてくれたのではないのですか!?」 「弟子としては? 認められたんだろ」 ミハイルがティルジットのプライドを叩き落し、ジェイが踏み潰した。 「ぁあぁ・・・。ドーティス。やはり私が見込んだ方です。貴方についていきますよ・・・どこまでも」 さらに気を落としたティルジットが、ゆっくりと歩み、ヤツらに指示を出して自らも扉直しに取り掛かった。 「・・・さすが兄貴だなぁ。あのティルジットがアク抜きホネ抜きにされてる」 「ほんとだ。家に押しかけて来たときの勢い、なくなっちゃったね」 アーティアがどこか心配そうに、作業をしているティルジットを見つめた。 そう言われると、こ憎たらしいティルジットが、なんだかかわいそうに思えてくるから不思議だ。 「アーティア、母さんね、来年から少しずつ仕事に戻ろうと思っているの」 ミハイルの復帰宣言を喜ばないアーティアではなかった。 「そうなんだ! いいんじゃない? カタリナさんも喜ぶよ」 ・・・・・・・・・・ あっ! 三人が顔を見合わせる。 もう一人、隠し事をされたことに盛大にいじけそうな人物が残っていた。 「わー、絶対いじけるよカタリナさん。母さん、早めに手打ったほうがいいよ。おいしいご飯食べたいし、きれいな家に住みたいでしょ」 ワーニット家の家政婦であるカタリナは、いじけると家事をすごく手抜きしてくれるのだ。 「わかってるわよぉ。あぁでも、どうしましょう」 ミハイルは、もちろんカタリナへの連絡もすっかり忘れていたのだった。どう足掻こうと今さらなのだが・・・。 「はっは、俺しらねー」 「ユング! 笑わないで助けてよ」 「どうしよっかなー。なー、アーティア」 「なー、ジェイ」 「ちょっとふたりとも! 子供みたいなことしないで、ねえ」 東海の孤島から、似た者二人の笑いがカラカラと湧きあがった。 この日、空はどこまでも快晴────。 |
FELLOWS!
第三話: Charming artifact
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ジェイ、緑のおじさん。…… 『 叔 父 』 ね。