第三話: Charming artifact(2)
■□■□■□ 「ドーティス! ミハイル! いるか」 ジェイが、し慣れた様子でログハウスの入り口の扉を開け放った。 「早かったな」 内から返事をくれたのは、後ろで一つに縛った長い黒髪の男だった。 黒髪の男、ドーティス・フォルツェが二人を迎え入れる。 「鳩便に書いたとおりの時間だろ。意地わりーな、兄貴は」 ジェイと親しそうに抱擁した後、ドーティスは入り口で立ち往生しているアーティアに目を向けた。 「アーティア」 そう言ってほほ笑む。 「よく来たね。ジェイから聞いてると思うけど、私がドーティス・フォルツェだ。はじめまして、だね」 一言で言うならオオカミ顔の彼は、目尻にしわができる、なんとも優しそうなほほ笑みで、右手を差し出した。 アーティアは「はじめまして、アーティアです」と言って、彼の骨ばっているが器用そうな手に、震えながら握手をした。 アーティアは自分とは思えないほど緊張していた。 「ミハイルを呼んでくるよ。くつろいでてくれ」 ドーティスが引っ込んだ後、アーティアは思わずジェイの腕にしがみついていた。 「ジェ、ジェイ〜〜〜っ」 「どうした?」 「なんかオレ、わかっちゃった・・・。母さんがドーティスにぞっこんな理由」 見る者はなかったが、一瞬、ジェイの左眉がぴくりと反応した。 「あ〜! しびれたぁ〜」 アーティアは、ジェイの腕にしがみついたまま、足をバタつかせている。 「・・・・・」 コートを肩からずり下ろされたジェイの心中は複雑だった。 アーティアはミハイルの卵子からつくられた人間。クローンではないが、ミハイルそのものといっても過言ではない。そのアーティアが感じたドーティスの第一印象が「しびれた」である。 まさかアーティアまでもがドーティスにぞっこん…なんてことになりはしまいか、とジェイは一抹の不安をおぼえるのだった。 「アーティア・・・!」 その声色で名を呼ばれたアーティアは、眉を吊り上げ、目を大きく見開いて、声のした方向に振り返り・・・、 …第三話冒頭に戻る・・・。 ■■■ □□□ ミハイル・ワーニットがジェイとアーティアを座るように促したが、二人は動けずにいた。 彼女の腕に抱えられた黒髪のこびとは、薄いグリーンの大きな目を、奇天烈な表情ままの二人に向けている。 「母、さん・・・?」 アーティアが目をぱちくりさせると、こびとも目をぱちくりさせた。 「背が伸びたわね、アーティア。それにとても綺麗になったわ」 ミハイルは五年ぶりに会うわが子に慈愛の笑顔をみせた。 「ジェイも、今までご苦労さま。あなたから定期的に鳩便もらっていたけれど、大変だったでしょう」 「いや、俺はいいよ。それより・・・」 ジェイとアーティアの目線が注がれる先のものを、ミハイルも見つめ、その黒髪を撫でる。 「イリアス・ワーニット。女の子よ。イリアス、アーティアお兄ちゃんとジェイよ。挨拶なさい」 ミハイルがそう言うと、イリアスと呼ばれた女の子は、ミハイルの腕からおりて二人に正対した。 「イーアスです、アーチャおにいちゃ、ジェ、はじめまして」 子供にしては丁寧な挨拶だった。 「は、はじめまして、アーティアだよ。きみは・・・」 「あなたの妹よ。4才なの」 ミハイルはショッキングな事実をさらりと言ってのけた。 「い、い、いもぉと〜!?」 アーティアは卒倒寸前だった。そのときジェイは何か閃いたらしい。 「い、い、育児休業!?」 「そうよ。あら、言わなかったかしら」 「聞いてねーよ姉貴ぃ」 がっくりとしなだれるように、ソファに身を沈めるジェイ。 「・・・母さん、もしかして、母さんとドクタードーティスの子供?」 「そうよ。かわいいでしょう? 黒い髪なのよ」 うふふ、とほほ笑む彼女を、いったい誰が責められよう。 「オレ出産するなんて知らなかったし! やられたぁ〜! 今ほど母さんが母さんらしいと思ったことねえ」 アーティアも、ソファのジェイの隣に沈み込んだ。 「ジェイの正体知ったときより衝撃的・・・」 「・・・やっぱミハイルはどこまでもミハイルだった」 ジェイはこめかみに指を当てて唸った。 そんな二人をみて、当の本人ミハイルは、くすりと笑ってこう言った。 「あら、二人ともなんだか似てきたわね」 行動が、と言いたいようだ。 「五年だものねえ」 彼女はまた、うふふ、と笑う。 「お茶が入ったよ。」 ドーティスがふるまったお茶でひとまず落ち着いたジェイとアーティアは、床に広げた落書きマットに、熱心に魚の絵(と思われる)を描いているイリアスに目を向けた。 「まじ、間違いなくミハイルとドーティスの子供だな・・・」 ジェイのつぶやきに、アーティアが二回、首を縦に振る。 髪と目の色を父から、顔の造りを母から間違いなく受け継いでいる四歳の女の子が、突然アーティアの妹になった。 アーティアは、あまりの衝撃から、えもいわれぬ脱力感に襲われていた。 「アーティアもかわいかったけれど、女の子はやっぱりいいわねぇ」 「私も手元で子供を育ててみたかったんだ」 ミハイルとドーティスは、端から見ていてもラブラブだった。 「てゆーか、鳩便飛ばしてくれよ。俺にも教えてくれねーって、どういうこと」 憤慨するジェイにドーティスは、はははと笑った。 「すまんすまん。初めての赤ん坊の世話にバタバタしてるうち、ついうっかりな」 「ついうっかり・・・。なんか、俺たちのことないがしろにされた気分だ」 めったに拝めないジェイのイジケに、アーティアが復活の兆しを見せる。 「ジェイがふてくされてるぅ」 にんまりと笑うアーティアのほっぺたを、ジェイはおもいっきり引っ張った。 「あややあやや! やえよ〜」 両方の頬を引っ張られて、これ以上ないくらいに痛がっているアーティアの顔から、パッと手を放してジェイは耳打ちした。 「おまえ悔しくないのか?」 「? なんで?」 頬をさすりながらアーティアがジェイを上目で見る。 「なんでって。言ってみれば五年も、ミハイルに裏切られてたってことだぞ」 「・・・・・」 ジェイのその言葉に、ミハイルとドーティスが申し訳なさそうにうつむいた。 ジェイには、ミハイルが、過酷な運命を持ってしまった最初の子供アーティアをほったらかしで、自分のことしか考えていないように見えてしまったのだった。 そしてミハイルとドーティスも、そう思われても仕方のないことだ、と思っていた。 しかし、それに対するアーティアの答えは意外なものだった。 「べつに、悔しいとかそういうのはないよ。母さんは最初の手紙で『オレを連れて来てね』って言ってたし、鳩便でオレたちの状況も知ってくれてたんだろ? だから裏切られたとかほっとかれたとか思わねーよ。母さんの息抜きのしかたって、ちょっと常識では推し測れないとこあっからさ。それが出産と子育てだって不思議じゃないっていうか。だからジェイがそんなふうに考える必要ないと思うよ」 アーティアは、こういう感性の持ち主なのだ。 その言葉に、ジェイも、ミハイルもドーティスも、そしてイリアスも救われることとなった。 「ありがとう、アーティア」 母ミハイルは、劇画を切り取ったかのように、とても美しくほほ笑んだ。 同じ頃、島に棲む小動物たちが、島の異変にざわめいていた。 |
FELLOWS!
第三話: Charming artifact
ページ進行 1・2・3・4・5
コンテンツへ戻る