第一話: Wandering traveling(5)
「こちらのお部屋になります」 それからはヤツらに襲われることもなくミオルのリゾートに入った二人は、老舗の高級そうな旅館を宿に決めた。 仲居のおねえさんに案内された部屋は、夕陽を浴びて眩いミオルの山脈を望めるツインの和洋室だった。路銀管理を徹底しているジェイは普段ケチ過ぎるくらい節約しているが、宿代にだけは羽振りがいい。ジェイはキレイ好きなので、お風呂に入れない野宿などありえないのだ。 「へぇ、いい部屋だねー」 「当たり前だ。ここを何処だと思ってんだ」 仲居のおねえさんは二人のやり取りを見ながらお茶を入れて言った。 「こちらへは観光で?」 コートを脱いで座敷に座ったジェイは、出された茶を一口飲んだ。 「ええまあ。このコート、クリーニングお願いしたいんですけど」 「かしこまりました」 仲居のおねえさんは非常口とフロントナンバーと食事の説明をして、ごゆっくりおくつろぎくださいと言って出て行った。 アーティアは茶をすすりながら言った。 「マジでほとんど観光だったよな、この五年間。この町に母さんいるかなー?」 「明日探そう。とりあえず風呂だ」 「そーしよ。汗かいたもんね」 二人は浴衣に着替えて風呂に向かった。 「また伸びたなー」 三つ編みを解いたアーティアの長い髪を洗ってやりながら、溜息混じりにジェイが唸った。アーティアも頭にシャンプーの泡を立てて言った。 「てか、オレの髪、異常に伸びんの早いんだよ」 「ひと月に五センチは伸びてるよな」 「・・・もっといってるかも」 アーティアは自分の髪が長すぎて手におえないので、いつもジェイに洗ってもらうのだ。 「流すぞー。目閉じとけよ」 言うが早いか、ジェイは風呂桶の湯をアーティアの頭にぶっかけた。 「ぷーっっ」 「も一回」 ジェイはジェイで、アーティアの世話を楽しんでいるようだった。 少々熱めの湯船に浸かってジェイは言った。 「アーティア、誕生日もうすぐだな」 アーティアは洗った髪を頭上に団子にして乗っけて、湯船の中を泳いでいる。 「うん。来週でオレもハタチだぜー」 「湯ん中泳ぐハタチねぇ」 「広いお風呂は泳がなきゃ、だろー。きもちいーぞー。ジェイも泳げば?」 「遠慮しとく」 ジェイは、カエルのように泳いでいるアーティアをじっと見据えて「ついに来るのか」と小さく呟いた。 翌日も突き抜けるような晴天だった。 クリーニングでアーティアのよだれをキレイキレイしたコートを羽織ったジェイと、髪を暗緑のバンダナにまとめて黒いスリーブレスのハイネックを着たアーティアはミオルの町に繰り出した。 「あーっ、温泉饅頭だよ!ほっこりと蒸し上がってうまそー」 「買わん」 「こっちはおだんごー」 「食わん」 「じゃあアイス天ぷらー」 「いらーん!」 温泉の商店街で目移りに目移りを重ねるアーティアに、ジェイは叱咤した。 通り過ぎる人々や店の従業員たちの視線が二人に注がれている。 「食いてーっ!」 ジェイは駄々をこねるアーティアを見下ろして、きつい眼差しで一瞥した。 「くどい。それとも何か?おまえは母親より食い物が大事なのか」 そんなジェイの冷たい態度にアーティアもついに逆ギレした。 「言わせてもらえばジェイ!母さんは昼間っから商店街うろついたりしねーよ!今頃どっかでのんびり読書でもしてんだっ」 顔を見合わせて目から火花を飛び散らせてガチンコになっている二人の間に、おやじ一人とおばちゃん二人が割って入った。 「あ、あのー、これ差し上げますんで、どうかお気を静めなすって・・・」 そう言って温泉饅頭とおだんごとアイス天ぷらをそれぞれに差し出す。 「えっ、くれるのー?ありがとーっっ」 怒りはどこへやら、アーティアは満面の笑みで向き直り、それらを受け取った。 「すみません。このバカ、甘いものに目がなくて。見境いなくなっちゃうんですよ。ご好意、有り難くいただきます」 ジェイは美貌で少し困ったように微笑み、深々と頭を下げてから、ニコニコして小躍りしているアーティアに呼びかけた。 「ホレ、行くぞ」 「うん。うまいねーコレ。ありがとねー」 早速もらったアイス天ぷらをかじり、去り際にアーティアは三人に手を振った。手を振られた三人も通行人も商店街の人々も、ただただ唖然としていた。 「うはー。初めて食ったよアイス天ぷら。不思議な感じだよ。ジェイも食べる?」 「いや、いい・・・」 歩きながら美味しそうにほおばるアーティアを尻目に、ジェイはいささかげんなりして手元の温泉饅頭を眺めた。アーティアは口に物を入れたまま、思い出して笑った。 「むふっ、それにしてもジェイってば演技に磨きがかかってきたね」 「おまえなー。いーかげんやめようって気にはならないのか」 「だってせっかくくれるんだよ?ご好意はいただかなきゃ。それにジェイだってオレの食費浮いてウハウハなんだろ」 「・・・こーゆーの、性じゃねーんだけどなー・・・」 ジェイは溜息をついて空を見上げた。 二人は、と言っても主犯はアーティアなのだが、行く先々でこの手を使い美味いものにありついていたのだった。 「・・・もーやめよう。ホントにやめよう・・・」 独りごち、ジェイは温泉饅頭を口に運んだ。 結局、ミオルの保養地すべてを尋ねたがミハイルのミの字さえ出てこなかった。 二人は夕焼けの中、町並みを一望できる展望台にいた。 「またハズレだったね。次はどこですかー?ジェイ先生」 「そうだな。山を越えてハウアに行こう」 「今からー?!」 「ああ。夜行列車に乗ってな」 「夜行列車!」 死んでいたアーティアの瞳が、夜行列車というロマンチックな響きを口にして、途端に輝きだす。 「初めてだもんな、おまえは」 「うんっ。時間は大丈夫なの?早く行こう」 途端にそわそわしだす子供っぽいアーティアを見てジェイは僅かに微笑み、荷を背負った。 「じゃあ行くか」 「参りましょう。夜行列車が私を待ってるんです!」 駆け出すアーティアを呼び止め、ジェイはコートのポケットからユッパチャプスを取り出した。 FELLOWS! 第一話:Wandering traveling (終わり) |

ひょっこりジェイ。
FELLOWS!
第一話: Wandering traveling
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