FELLOWS!

第一話: Wandering traveling(4)




 バスを降りた二人は二人の他に誰もいないバス停のベンチに座り昼食を取った。

「ジェイって剣のくせにご飯は三食、きちんと取るのな」

 アーティアがハムタマゴサンドをかじりながら言った。

「当然だろ。一度だって持ち主が手入れしてくれたことねーんだから。自分で管理するしかねぇだろ」

「えっ、オレが手入れするもんなの?」

「期待してねーよ」

 ジェイはカフェオレをぐびりと飲み干した。

「なんだよ、手入れの仕方も教えてくれないくせにさ」

「メシ食って風呂入って寝てりゃいーの。それだけで刃こぼれも自己回復していつでも切れ味抜群。楽なもんだろ」

 ジェイはゴミを一つの袋にコンパクトにまとめてバッグにしまった。筋金入りのキレイ好きは、ポイ捨ては絶対にしないのだ。

「へー。やっぱ剣ってより人間っぽいよなー。ジェイにも子供の頃ってあったの?」

 問われたジェイが覗き込むと、アーティアはいつになく神妙な顔つきをしていた。

「・・・俺のこと知りたいのか?」

 アーティアは肯いた。

「ジェイって自分のこと何にも話さないじゃん。知りてーよ」

 するとジェイは、ふむ、とあごを指で支え「いいだろう、教えられることだけならな」と言った。

「それじゃあ質問に答えようか。俺にも子供の頃はあったぜ」

「生まれたときから剣精だったの?」

「おっとそれはプライバシーに関わる。答えられない」

 オレのプライバシーはことごとく侵害してくるじゃん、とアーティアは思い、小さく拗ねた。

「オレにしか使われない剣のくせにこの態度のでかさは何なんだろうね。じゃあ母さんとはどういう関係?」

「そいつはもう回答済みだ」

「古くからの付き合いって?答えになってねーんだよ」

 ジェイは拗ねるアーティアの瞳をじっと見据えた。アーティアは反射的に目をそらした。

「ちぇっ。じゃあユングフラウ叔父さん、知ってる?」

「ああ知ってる。ミハイルの弟だな」

「知ってるんだ!?オレ七歳のとき以来会ってないんだけど、元気なのかな。会ったことあんの?」

「六年前にシャスの町で偶然会ったときは旅をしていると言ってたぞ」

「へぇー。まだ旅してんのかな。どっかで会えるといいなぁ。へへっ、懐かしいなあユン兄ちゃん。年取ってもかっこいいんだろうね、あのひと」

 アーティアは組んだ膝に肘を乗せて頬杖をついた。

「うん。いい男だったぞ」

「そーでしょう、そーでしょう。なんたってオレの叔父さんだよ」

 ユングフラウの格好よさを思い出すと、顔がほころぶアーティアだった。

 ジェイは荷をまとめて言った。

「ぼちぼち行くか。日没までにはミオルに着きたいからな」

 アーティアは肯いて立ち上がった。




 深い森林特有のむせ返るような腐葉土と湿った緑の香りの中、けもの道をさらに山奥へ入っていく。二人が幹線沿いに進まなかったのは、けもの道がミオルへの近道だからだ。

「あー楽しみだなあ、ミオルの温泉」

 シャクシャクと湿った草土と小石を踏みつけた足音を立てながら、アーティアはジェイの言う有名なスパリゾートに思いを馳せた。

「アーティア、そいつはお客さんたちを丁重に葬ってから考えようぜ」

 ジェイが立ち止まり警戒する。

「!」

 アーティアが周囲を見渡すと、木陰から何者かがゆらりと姿を現した。一応人らしい姿ではあるが肌はどす黒く頭に髪はなく、目は死人のように窪み、やけに尖った歯が締まらない口からはみ出ている。体に服は纏っていない。まるで粘土細工のようだ。そして手には棒切れを持っていた。

「でたな。相変わらずザコっぽい登場のしかただ」

 そう言ってジェイがアーティアのもとまで戻る。

「ワン、ツー、さん、しー、ご・・・へぇ、七体もいるよ、ジェイ」

「久々に大量発生だな。しかしアーティア、その変な数え方どーにかしろよ。力が抜ける」

「いーじゃん、好きなんだもん」

 アーティアは手を差し出した。その手にジェイが触れる。

「ジェイ、ソードリアル!」

 閃光を放ち、ジェイがトランスフォームした。その一瞬にアーティアは右に体の向きを変えながら、舞うように振り上げた剣を頭上で回して前方に突き出した。閃光が完全に消失した時には、ヤツらのうち二体が倒れていた。

 アーティアは剣を持ちながらも、木々の間を何の迷いもなく舞っていく。むしろその狭さを利用してヤツらを追い詰めているようだった。空間把握の感覚が優れていなくてはできない離れ業である。ふいにアーティアは後方に宙返り、宙で体をひねった瞬間に剣で薙ぎ払った。またしても一瞬の間に、そこにいた二体が引き裂かれた。

ピン、とジェイが音を発した。

「おいおい、そんな舞い見たことないぞ」

「今のはオレのオリジナル。ずっと考えてたんだ。大成功じゃん」

 ジェイを出し抜き満足気のアーティアに、後左右三方向から歯を剥き出しにしたヤツらが突っ込んできた。

「おまえの戦闘センスときたら、まったく」

 そんなジェイの言葉を聞いてアーティアは刹那妖艶に笑み、優雅な剣舞を披露した。

 アーティアが剣を振り下ろして舞を決めたのと、ヤツら三体が倒れたのは同時だった。

「…手応え無さすぎねー?おまえら」

 アーティアは倒れているヤツらを剣でつんつんとつついた。

「ミハイル仕込みのおまえの剣舞が強すぎんだ」

「ヒューマンリアル!・・・そんなもんかなあ」

 剣が人の姿に変わった。

「おまえなぁ、いきなりオリジナル技繰り出すなよな」

「びびった?ねえ」

 ニコニコと笑うアーティアに先程の妖艶さは見られない。ジェイは、すっかり普段の姿に戻り、先程の戦闘中の好戦的な雰囲気が微塵も感じられない幼な顔の少年に「ちょっとだけな」と言った。




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第一話: Wandering traveling

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