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「急かすなよ。おまえにも分かるようにおしえてやっから」
アーティアは興味津々の表情でジェイを見ている。
「俺はな、俺自身が剣なんだ。そしておまえにしか扱えないように仕組まれている特殊な剣でもある」
そう言って手を差し出すジェイ。
「オレにしか・・・って?」
アーティアはその手を取った。
「剣へは『ソードリアル』、人間へ戻すには『ヒューマンリアル』と唱えるんだぜ」
アーティアはジェイの深い海の色の瞳に惹かれるようにその言葉を唱えていた。
「ソードリアル…」
刹那、ジェイの体が発光し、触れていたアーティアの手からすらりと真っ直ぐに延びる美しい剣になった。
「ジェイ!?すごくねー?」
煌めく刀身は自分が映りこむほど曇りがない。アーティアは素直に綺麗だと思った。
剣になったジェイの柄から切っ先までをじっくりと眺めてみる。まるで自分の体の一部であるかのようなフィット感だった。
「本当にジェイなの」
アーティアの問いに答えるように、ピン、と剣から発せられた音が、ジェイの声色になってアーティアの耳に届いた。
「ああ。ところでアーティア、剣術はやったことあるか」
「そんなのないよ」
「なに!?ミハイルの剣舞、見たこともないのか?」
アーティアは剣になったジェイを構えたり天にかざしたりしながら言った。
「母さんの舞なら何度も見たことあるし、真似っこしていつもやってるけど…剣術はやったことないよ」
ジェイは再び音を発した。
「そうか。よし、じゃあ舞ってみてくれ」
「いいけど・・・」
アーティアはミハイルの見様見真似ですっかり体に染み付いた剣舞を舞った。
「ふむ。俺を人間に戻してみな」
「わかった。ヒューマンリアル」
発光して人の姿に戻ったジェイが言った。
「ミハイルの剣舞は詩吟の剣舞でもあるんだが、本来は密かに伝承されてきた特殊な剣術なんだ。まあ、真似っこにしちゃあ上出来だな」
「そりゃ小ちゃい頃からやってるからなー。でもこれが剣術だなんて知らなかったよ。・・・母さんて、もしかして強かったりすんの?」
アーティアの呟きにジェイはのけぞり、暫し絶句してからボソッと言った。
「・・・知らないってことは幸せだな。強えなんてもんじゃねえぞ。ありゃ神業だ」
意外そうな顔をしてアーティアは「へー」と言った。いまいち実感が沸かないらしい。
「とりあえず、だ。ミハイルの所に行き着くには、おまえには俺も剣術も確実に必要だな」
「自分の身は自分で守れってこと?母さん捜すだけなのにそんなに危険なのか?」
アーティアの問いにジェイは、何かをはぐらかすように渋い顔をして言った。
「まァな。おまえ、この町から出たことないんだろ?」
「失礼しちゃうな!出たことくらいあるさ!」
「車に乗って、だろ」
アーティアは肯いた。
「ばっかだなぁ。車で行ける所なら鳩便で手紙なんか来ねーよ」
確かに。そしてアーティアはふと思った。
「・・・ジェイ、本当は母さんの居場所知ってんじゃないの」
腕組みをしたジェイが遠い目をした。
「大体の見当はついてる」
「よし!行こう」
「早ッ。旅支度とかしねーのかよ。とりあえず家政婦さんには断っとけよ」
こうして二人は意気投合し、家政婦のカタリナに家をまかせてミハイル・ワーニットを探す旅に出たのであった。
女優ミハイル・ワーニットの急な活動停止のニュースが世間を騒がせたのは、この後のことだった。
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「ジェイ〜、次はどこ行くの〜?」
アーティアはユッパチャプスを舐めながら、先行くジェイを見つめた。
旅立って早五年、ジェイの「大体の見当」を当てに世界を股に掛けつつある二人が次に向かう所は・・・
「ミオルだ」
「そこには何があんの〜?また遊園地だとちょー嬉しいんだけど」
「ちょーって。ミオルは有名なスパリゾートだぞ。だが道のりは今までとは違う。山奥の山奥の、そのまた山奥なんだ」
「じゃあ山奥の山奥まで車で行って、そのまた山奥までは歩きってパターンだな」
ジェイは振り返り、ニッコリ笑ってアーティアの頭を撫でてやった。
「分かってきたじゃないか」
そりゃ五年も振り回されればね、と心の中で密かに毒づくアーティアだった。
『車で行ける所なら鳩便で手紙なんか来ねーよ』と言っておきながら、ジェイの大体の見当というのは車でラクラク行ける金持ち御用達の高級リゾートであったりテーマパークであったり保養地であったりと、ミハイルの行きそうなところばかりだった。
二人はいつも目的地までの途中で車を降りるようにしていた。路銀不足かと、ジェイの路銀管理に問題があると思われそうだが、実はそうではないらしい。
「山奥ってことはー、またヤツら出てくるよね」
アーティアはうんざり気に上を向く。
「出るだろうな。ヤツら薄暗い湿った所好きっぽいもんな。まあ、束になって襲って来ようが俺とおまえの敵じゃねーよ」
アーティアは肯いた。
『ヤツら』とは、二人が行く先々の、特に山奥で頻繁に現れ二人を襲ってくる『ヒト形の人にあらざる者たち』のことだ。二人ともそいつらの呼び名を知らないので『ヤツら』と言っているのである。なぜ二人を襲うのかは全く分からない。いつもしつこく追われるので、二人にとって、ぶった切らざるを得ない始末に終えない奴等である。
ジェイが考察を述べた。
「ヤツらは人工生命体だから造った人間がいるはずなんだが・・・。そいつがなんで俺たちを狙うのか」
アーティアも参加した。
「でもって、そいつの目的は何なのか」
「まァそれが何であれ、剣精の俺は斬りたい欲求満たされていい気分になれるし楽しいぜ」
「実はオレも。ジェイを持って斬るとき、すっげー快感」
二人の笑い声がカラカラと青空の下の荒野にこだました。
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